第26話・玩具と道具

 乗組員たちは全員が機能停止状態にされ、ブリッジの冷たい床に無造作に転がされていた。

 ユリ船長のボディは腹部から真っ二つに引き裂かれ、離れ離れに打ち捨てられている。

 オイルとも血液とも判別できない真っ赤な液体がその2つの間に飛び散り幾何学模様を描いていた。

 そのすぐ傍で、サオリとザジは男たちに玩具のように犯されていた。

 下卑た笑いを顔に貼り付けた無法者達に取り囲まれ、一切の抵抗をできないまま、代わる代わる犯され続ける。

 

 敵船団を感知して戦闘態勢に入ろうとしたときには既に遅かった。

 アラートがけたたましく鳴り響くなか、ブリッジで臨戦態勢をとろうとしていたリナたち宇宙海賊は次々と機能を停止した。

 駆け寄ったぼくに、機能停止直前のドクターが言う。

「ルルを頼んだわ、船室に隠して、あなたもいっしょに…」

 ぼくはルルを連れて自分の船室に行き、怯えるルルをベッドの下に隠し、そして船室を飛び出した。

 ぼくだけが隠れているわけにはいかない。

 ぼくも彼女たちと一緒に闘うって決めたばかりだ。

 ブリッジに飛び込み、コンソールの下に身を隠す。

 目の前にスタビライザーや空気清浄機がマウントされたラックを引き寄せる。

 これで目隠しになるはずだ。ぼくはそのまま待った。

 襲ってきたのはヤツだ。こんな芸当ができるのはヤツしかいない。

 彼女たちを造った星間アンドロイド協会から逃亡アンドロイドの捕縛を依頼されたハンター。ヤツは彼女たちを遠隔から停止状態にさせることができる特別な装置を持っている。

 前回ドジを踏んだその復讐をしに来たに違いない。

 かくして数分もしないうちに、手下をゾロゾロと従えた男が悠々とこの船に乗り込んできた。

 先頭に立つ男は、やせ細ったカマキリのような男だった。

 その後ろには武装した10人ほどの男たち。

 どこからどう見ても凶悪そうな、恐らく海賊くずれの汚らしい奴ら。

 先頭の男はブリッジに力なく倒れ込む乗組員たちを順に眺める。

「さすが高級セクサロイドだな。どれも美しい。しかも一人前に感情も持ってる。征服欲を掻き立てられるな」

 つかつかと気取った足取りでブリッジに入ってきた男は、入り口近くに倒れていたサオリとザジを足で突いたり転がしたりしながら言う。

「前回みたいにドジ踏まねぇように、今回は有無を言わせずお前らの機能を停止させてもらったよ」

 やはりあいつだ。アンドロイド協会から逃亡セクサロイドの捕縛を請け負った男。

「が、思考回路だけは止まらねぇようにしてある。思う存分辱めてやる。自分の無力さを嘆きながら悶え苦しめ。なんせあの時は世話になったからな。お返してしてやらねぇとな」

 あの時ぼくが逃してしまった男、ハンターはそう言うと、立ったまま機能停止しているユリ船長の腹部に至近距離からショットガンを発射した。

 船長のボディは真っ二つに裂け、宙を舞い、離れ離れになった。

「こいつは対アンドロイド用ニードルショットガンだ。撃ってみたくてウズウズしてたんだ」

 ハンターは恍惚の表情を浮かべショットガンのストックを撫で回す。

「さて、あとの奴らはどうしようか」

 ハンターは舌なめずりをするとザジとサオリを順番に指差し、

「これとこれは自由に使ってよし。どうせ抵抗はできないんだ。好きなように遊んでやれ」

 ハンターの言葉が終わらぬ内に、手下たちはサオリとザジに一斉に群がる。

 そして、停止状態のふたりを代わる代わる弄び始める。

 あの時、上目遣いにぼくの目を見つめていたサオリのキラキラした瞳は見開かれ、いつも憂いを帯びた儚げな表情を浮かべていた美しい顔は生気を失い、ぼくを睨み殺す勢いでいつも鋭い視線を送ってきたザジの瞳も、ぼくを圧倒的な力で締め上げたその腕も、すべて力なく沈黙して、どちらも完全な無表情のまま、男たちの欲望のままに突き上げられている。

 さっきまで、ぼくらは平和に航海をしていたはずなのに、奴らは一瞬にしてここを猥雑で下品な地獄に変えた。

 ぼくはただ呆然とその地獄を見つめることしか出来なかった。

 隠れる時に銃を持ってこなかったことを今更のように後悔する。が、この状況ではたとえそれがあったとしても、何もできなかっただろう。なにしろ相手は10人以上。それぞれ武器を持っている。

 だが、このまま傍観しているわけにはいかない。

 考えろ、いますぐ奴らを皆殺しにしたい。だから考えろ。

 ハンターは船長の上半身を覗き込みながら、手下を呼ぶ。

 ザジの胸を弄り回していた男が名残惜しそうにハンターの元へやってくる。

「聞くところによると、こいつはアンドロイドではないらしい、何をするかわからんし、反撃されると面倒だ、本体を探してこい」

 手下は首をかしげる。

「本体…ですか?」

 ハンターは顔をしかめて手下を睨みつける。

「こいつの正体はVIP用の行動支援AIだ。この体は遠隔操作された容れ物にすぎん」

 ハンターは船長の上半身をつま先で突く。

「こいつの本体はどこか他にあるはずだ。オレンジくらいの大きさの球体だ。何人か連れて探してこい」

 船長がAI…

 しかし、思いがけず判明した船長の正体に驚いている暇はない。

 もしかしたらハンターは全員を破壊してしまうかもしれない。

 協会との契約には背くことになるかもしれないが、この船さえ取り戻せれば船主から金は出るはずだ。

「ハンターを職業とするおれみたいな男にとってはな、おまえらみたいなアンドロイドにいいようにあしらわれてコケにされたことが世間に知れたら、それすなわち職業上の死だ。わかるよな。だから今度は容赦できねぇんだ。アンドロイドに舐められたままでは終われないんだ、わかるよな」

 ハンターは無造作に転がされているママとリナとドクターに向かって話し続ける。

「あの2体だけ犯されてるのはなんでだかわかるか?おれも迷ってるんだ。全部ぶっ壊しちまったら賞金が減るだろ?お前らはこのまま連れて帰ってもいいかなって思い始めてるところだ。背に腹は変えられねぇ」

 するとハンターはリナに近づく。

「だが、おまえは上玉中の上玉だ。おれが犯してやってぶっ壊してやってもいいな。他のやつには手出しさせねぇし、そうしちゃおうかな、いままでそんなことしたことないんだけどな、おまえはほんとに良く出来てるし」

 ハンターはリナのスカートをつま先でたくし上げるとその白い太ももをブーツのつま先でなぞり始める。

 ぼくの心臓が極限まで激しく脈を打ち始める。

 このまま何もせず見ていることはできない。

 これ以上できないほど強く歯を食いしばり、全身を震わせる以外に出来ることがあるはずだ。

 どうしたら。

 相手はぼくがこの船に乗っていることを恐らく知らない。

 それをうまく利用できないか。

 考えろ、考えろ、考えろ。

 しかし、蹂躙されているザジとサオリとリナを目の前にしている今、ぼくのアタマは沸騰し続け、体は震え続けている。どうにかなってしまいそうだ。

 ハンターは転がされているリナの傍に屈み込むとリナの足を愛撫しはじめた。

 もう少しで飛び出していってしまうところだった。

 その時、ユリ船長の本体を探しに出ていた手下たちがブリッジに戻ってきた。

「本体ってこれですか?船室の金庫のなかにありました。あとこいつは違う船室のベッドの下に隠れてました」 

 手下が持っていたのは30センチほどの高さの透明な立方体。

 その中央に銀色に輝く球体が浮いている。

 そして片手にルルを乱暴に掴んでいる。

「なんだそのガキは、こいつらがどっかで拾ったのかな、その辺に縛り付けておけ。金にならんものは放っておけ」

 そう言ってハンターは手下の持つ長方形の物体を手に取る。

「連合の超高機能行動支援AIだ。初めて見るぜ。量子脳ってやつだ。なかなか拝める代物じゃないぞ」

「はぁ…」手下はルルをコンソールの椅子に乱暴に縛り付けながら、上の空で応える。サオリとザジを早く犯したくてそれどころではないらしい。

「もともとは連合のお偉いさんの行動支援AIだったやつだ。なんの因果か、とてつもない知恵をつけてお偉いさんを裏切って脱走した。よくわからんが人間の知能なんか遥かに超えてるシロモノらしいぞ」

「はぁ」

「つまりだ、こいつは高く売れるってことだ。これひとつでおれは一生遊んで暮らせるはずだ」

 そしてハンターは手下を顎で追いやる。

 手下はサオリとザジを弄くり回している連中の輪に飛び込んでいく。

 ハンターは船長の本体をしばらく見つめていたが、決心したように顔をあげる。

「やっぱりそんなに欲を掻いてもいいことないかもな。この球ひとつあれば充分かも。おまえもヤりまくってぶっ壊しちゃおうかな」

 とリナを見る。

 だめだ。このまま見ているわけにはいかない。

 無謀でも何でもいい、とにかく助けなくちゃ。

 ぼくがその場を飛び出そうとしたその時、ハンターの手下の一人が鋭い悲鳴を上げた。

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