第5話・懐かしい夢
目を開けると無機質な天井がそこにあった。
うすぐらいが温かい部屋。
四方の部屋の壁すべてがオレンジのゴムで覆い尽くされている。
小さなその部屋には、ぼくが寝ているベッドだけがぽつりと置かれている。
傍らには女性が座っている。
誰だろう。リナでもドクターでもない。
女性の顔はその背後から照らす明かりで逆光になっていてよく見えない。
が、とても穏やかな表情をしているような気がした。
ベッドから体を起こそうとするが、体はびくとも動かない。
声を出そうとするが、声の出し方がわからない。
傍らの女性は椅子から立ち上がり、両手を差し出しぼくの頭をつかんだ。
柔らかい手の感触。
ふっと意識が遠のいていく。
目を覚ますとそこは海賊船の船室。
食事の後で船室に戻ったぼくは、知らず知らずのうちに眠り込んでしまっていたらしい。
今のはなんだったんだろう。
夢?にしては現実感があった。
部屋の雰囲気もオレンジの壁もなんとなく懐かしい気持ちを抱かせるものだった。
そしてあの女の人。誰だろう。
あの差し出された手のぬくもり…
もしかして、お母さん…
不鮮明なもどかしさとともに不思議な懐かしさも感じて、ぼくはとてもやるせない気持ちになっていた。
と同時に、ぼくは焦りを感じていた。それがどこからくるものなのかはわからない。ただ、「その時」が迫っている、そんな切迫感がぼくのなかで広がっていた。いまの夢のようなものがそれに関係しているのだろうか。それとも単純に記憶が戻りかけているのだろうか。
ぼくは何者で、何故、宇宙を漂っていたのか。
それは記憶が戻らない限りはわかりっこないことだし、だから今の自分は、とにかくこの船で記憶が戻るのを待つしか無いのだ。少なくとも彼女らの邪魔にならないように、少しでも航海の役に立てるようにならないと。後でリナに聞いてみよう。自分に何か手伝えることはないのかと。
ふとテーブルの上に置いてあるコップとそのとなりに置かれたポットが目に入る。
のどが渇いたな。
ぼくはポットを手に取り船室を出た。
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