第4話・食堂にて
食堂はかなり広く、船長以外の乗組員が全員集合していてもなんだか寂しく感じるほどだ。
10人以上が食事をとれるような大きな長テーブルがあり、その奥にソファやビリヤード台が置かれたラウンジ的なスペースがある。その床には赤を基調に複雑な模様が編み込まれた大きなラグが敷き詰められていて、居心地は良さそうだ。
乗組員は全部で7人。船長は自室で食事を摂ることになっているらしく食堂には滅多に姿を見せないらしい。いまこの食堂には6人の乗組員とぼくが顔を合わせていることになる。皆それぞれの席につき、互いに会話を楽しんでいる。乗組員は皆若い女性だし、海賊船というよりは女子大のラウンジみたいな雰囲気だ。
ぼくはリナに促されて一番奥の空いている席につく。
リナはぼくの隣に座った。
ドクターと軽く目で挨拶をする。
テーブルの向こうにもくもくと蒸気がたちこめるスペースがあり、そこが厨房のようだ。エプロン姿の恰幅のいい女性が食事の準備に追われている。
「ママ、まだぁ」
ルルは待ちきれないのか、席を立ち厨房の配膳窓に肘をついてもたれかかり足をブラブラさせている。
「ママ?」
「あ、厨房にいるのはマリア。みんなからママって呼ばれてるのよ」
なるほど厨房で忙しく働いている後ろ姿はみんなのママそのものだ。
「ちょっとまってね。もうすぐだからね」
厨房の中から柔らかい声が聞こえる。
その様子をみて思わず笑みがこぼれる。
なんだか家族みたいだな。
だが次の瞬間、背筋がゾッとするような視線を感じて、ぼくの笑みは凍りついた。
その視線の元をたどるように乗組員たちの顔を伺う。
すると、ひときわ強い視線を送る女性がひとり。
敵意に満ちたその視線に殺意の波動すら感じてみじろぎしてしまう。
彼女はモスグリーンのタンクトップ姿、ショートカットの目がさめるようなあざやかな金髪。幼さと大人っぽさを兼ね備えたハイティーン特有の生意気そうな顔つき。切れ長の目にランランと光る瞳。引き締まった唇。浅黒い肌。そして肩から腕にかけてほとんどの肌を覆い尽くすトライバルタトゥー。この船に乗って初めて「ちゃんと海賊らしい」乗組員に出会えた。
ぼくの狼狽に気付いたリナがぼくの腕をそっとつかむ。
「彼女はメカニックのザジ。気が強くて反抗的だけど、根はいい子よ」
そうは言われてもこの視線は普通じゃない。よほどぼくの乗船が気に食わないらしい。
とにかく触らぬ神に祟りなしだ。
やがて食事の準備が整ったらしく、それぞれの乗組員たちが厨房から各自の食事を運び食べ始めた。
ぼくもリナと厨房の配膳窓に並ぶ。
エプロン姿の恰幅のいい中年女性がトレーに乗った食事を渡してくれる。
「ようこそわたしたちの船へ。わたしはマリア。見ての通り食事担当よ。食材も限られてるし、豪勢なものは出せないけど、食事はとても大切なものだし、あなたもきちんととらないとだめよ」
たしかに食事はとてもシンプルなものでロールパンにスープと簡単な付け合せの野菜のみ。しかも野菜の色ときたら、どこの星のものなのか、今まで見たこともないような色をしている。
席につき黙々と食事を口に運ぶ。この船に運び込まれてから初めての食事。自分でも驚くほど腹が減っていたらしい。こんな食事でもあたたかく、とにかく美味しかった。
乗組員たちもさっきまで談笑していたのに、いまは食べるのに夢中だ。
満ち足りた気分でパンの最後のひとかけらを口に運ぼうとした瞬間、また視線を感じた。
今度はさっきのとは違う。舐め回すような、ねっとりとした視線。
視線の元をたどると、ひときわ線の細いまるで妖精のような佇まいの女性がこちらを伺うようにみつめている。まっすぐにみつめるというのではなく、あくまでもこっそりと、しかし強い視線。ぼくがそれに気付いたとみると、その女性はあわてて目をそらす。
食事を終えた乗組員たちはそれぞれ席を立ち、ラウンジのソファに座ったり、そのまま食堂を出ていったり、各自思い思いに過ごしている。
自己紹介的なセレモニー的なそんなことされたらたまらないなと不安に思っていたけど、それは杞憂だったようだ。まぁたしかに、ぼくは乗組員でも何でも無いし、ただのお荷物なのだからそりゃぁそうだ。
ぼくはリナに案内してもらった礼を言い、自分の船室へと引き上げた。
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