第3話 善良


 「善は私刑をする人は悪人と思っています。相手が悪人だからと許されている感じがするだけで、そういう人達は自分が傷つけてもいい人を常に探しているようなものです。それで暴力を振るったなら悪人、告発される側になります。そういう人達もこのアプリでいずれいなくなり、皆が告発を気にして善良になり、平和な世界にするというのが善の狙いです」

 

 悪人は悪人に殺される。それは善良な人間が悪人に殺されるよりもずっといいことだ。

 極端に言えばそうして悪人には殺しあってもらいたいし、そうしてもらえばいつか善良な人だけの平和な世界になる。だから善は悪人は死んでもいいなんて言った。カラミティがあればいつか悪人は根こそぎいなくなると信じて。

 

 「地獄森君は、神童と言われていたそうだけど精神は子供なのかな。そんな理想ばかりで、人を抑圧するような事をして」

 

 刑事さんのバカにするような言葉だが、反論したい善を私はなんとか止める。確かに幼稚で残酷なシステムだ。しかし警察を敵に回すのが今回の目的はない。

 ここで私はその事件についてが気になった。刑事さんは善を叱りたいのか、そんな話しかしない。

 

 「あの、刑事さん。どういう事件が起きたんですか?さっき言った通り、善は悪人をよく思いません。アプリを作った人間として事件解決の協力はできると思います」

 

 多分これが本題。そこに私は誘導する。

 警察は善からアプリ管理者ならではの情報を得たい。だからわざわざ学校に来たのだろう。何だったら見せしめかなにかとして警察署へ連れて行くつもりもあるかも知れない。

 色々と覚悟をしたのか、深いため息の後にいかつい刑事さんは語りだした。

 

 「死んだのは太刀川正義(たちかわまさよし)君。君たちと変わらない年頃の高校生だ。カラミティに一部情報を流されている。そして酷い暴行を受けた状態で発見された。犯人はまだ見つかっていない」

 「地域は?カラミティは無課金では一つの地域しか情報が見れないようになっています」

 

 善の代わりに私が尋ねる。カラミティは基本、自分が住んでいる地域の情報しか見れない。課金すれば他の地域も閲覧できるようになるけれど、自分の安全のためカラミティを使う人は無課金でも十分なはずだ。

 これは一応私刑防止のためである。無制限に地域の情報を得られれば全国から暇人の私刑執行人が集まってしまう。お金払ってまでそんな事をする人はそういないだろうから課金要素にした。

 

 「死体が発見されたのは○△市だよ。ただ、暴力が行われたのはどこかはわからない。殺して捨てたのが○△市というだけかもしれないからね」

 「○△市……」

 

 聞いたことのある名前だ。善は脳内にメモを取った様子で頷いた。

 

 「数カ月前、小さい男の子が行方不明になった土地だ。結構な田舎だから監視カメラも少なくて、まだ行方もつかめていない。人手があれば見つかるかもしれないが」

 

 お前らこんな事件扱っている場合かよ、という非難に満ちた声で善は説明した。そうだ、つい最近男の子が行方不明になったのが○△市。事件か事故かもわからないまま騒ぎになって、世間からは忘れられつつある出来事だ。

 

 

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