第2話 告発投稿
刑事さんの重々しく語る内容に、ああ、と私は納得がいった。善の作ったアプリが関わって人が死ぬなんて、想定内の出来事だ。
「カラミティ、というアプリだったかな。SNSアプリのようだが、告発というテーマがある」
calamity。意味は災厄。善が作ったアプリだ。簡単に言ってしまえば、誰かが個人の悪事を告発するアプリだ。
例えばある学校でイジメがあったとする。告発者はその証拠を動画、画像などで投稿し、全世界に公開する。そうしてイジメ首謀者は社会的な罰を受けることになるというものだ。
よくアプリの審査が通ったな、と思えるくらい、危ういものである事に違いない。でも善だって悪意からそんなものを作ったわけじゃない。
「我々はネット私刑アプリと呼んでいるよ。とにかくろくな使い方はされないのだから」
「そんな事はないだろう。悪意ある使い方をするのは一部の人間だけ、多くの善良な人間にはよいものだ!」
止せばいいのに善はタメ語で刑事さんに歯向かうような事を言う。
カラミティは別名リンチアプリと呼ばれているのは私も知っている。公開された情報は悪人ばかりで、悪人になら何をしてもいいと思っている連中がいる。そうなるとその悪人達が狙われる。中傷はもちろん、いやがらせ、はては暴力事件まで起こしている事もあるという。アプリで人が死んだとは、きっとそういう事だ。
「あのなぁ、地獄森くん。人が死んでいるんだぞ」
善がヘラヘラして見えるのだろう。呆れてはいるが疲れた様子で刑事さんが言う。人が死んだ。けれどそれはさっきも言った通り、想定内の出来事だ。
「死んで良かったじゃないか、どうせ悪人なんだから」
あまりに残酷なその意見に刑事さんはあんぐりと口を開けた。私と担任は慣れたので表情は変えない。
これはあまりにもまずい発言だ。私は思わず口をはさむ。
「ちょっと待って下さい。善は本当に人のためにそのアプリを作ったんです」
こういうところが私の役立つ所だと、私は堂々とフォローする。善は優れているが、それゆえに劣っている人間の気持ちがわからない。だから私が通訳する必要があった。
「まず告発というと、言いにくい被害に合っている人がするものです。その人達が救われる事は間違いありません。きっと警察に動いてくれない事や法が頼りにならないこともあるのですから」
前半は丁寧に、後半は皮肉を込めて言った。世の中悪事を働いたのに罰せられない人間が多すぎる。警察がまともに動かなかったり、法が許したりとかいう具合に。そんな憤りを覚えた人のためにカラミティはあるのだ。
「それに相手が悪人だからと私刑するのはごく一部の人間です。多くの人はその悪人を避けられます。例えば性犯罪した男を、子供やその親は避けることができます。カラミティの使用方法で一番多いのはそれです」
誰だって悪人には近付きたくない。とくに子供が狙われるような悪人なら情報は常に把握しておきたい。学校内などの一斉メールみたいなものだ。
もちろんそれはプライバシーの侵害ではあるけれど、肝心な情報はアプリ内ではぼかしている。
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