第4話 右手
「児童の行方不明事件で防犯カメラの必要性は思い知っただろうに、今回の高校生の事件だってカメラさえあれば」
「防犯カメラは警察じゃそう簡単に増やせない。そんなことくらいわかるだろう、神童なんだから」
善のわかりやすい挑発に刑事さんは少しだけ苛立った様子だ。この雰囲気はよくないので、私はカラミティの話に戻す。
「善、調べて。善のスマホならどの地域の情報が見れるでしょう?」
「はいはい。○△市ね」
だるそうに善は携帯を操作した。○△市。不審者の発見情報は多いが、田舎で人口が少ないからか告発自体少ない。なので例の太刀川正義の存在はすぐに見つけられた。
『○△高校生徒、T川М義(17)。喫煙』
それだけだった。いや、喫煙の証拠動画の動画サイトへのリンクはついているけれど、本当にそれだけだった。
カラミティにおいて喫煙なんて言っちゃ悪いがしょぼい。このアプリの目的は危うい人物を避けることだ。未成年の喫煙は確かに危うい行為だが、避けるほどではない。そして私刑で殺されるような悪行でもない。
念のため善にリンクを飛んでもらい、動画投稿サイトにある肝心の証拠動画も確認する。顔や素性は隠されているが、制服を着ているし、すぐに映っているのが太刀川正義とわかるような動画だった。
タイトルは『未成年だけどタバコ吸ってみた』なんていうひねりのないタイトルだった。
『えー、今からタバコ吸いまーす』
そんな言葉と共に太刀川以外の誰かの笑い声があってタバコを吸ってむせるだけで終了。自分からこんな動画をばらまいていたなんて、そしてそれを告発されてしまうなんて、どうかしている。
「その子が愚かだと君達は言いたいだろうがね、第三者に痛めつけられて殺されていい理由にはならないんだよ」
刑事さんは疲れた様子で私達に言った。本音を言えば太刀川がろくでもないと知っているが、それでも刑事という立場では犯人を追わなくてはならない。
私は内心同情した。しかし善は質問をする。
「痛めつけられたというのは?」
「体中に打撲や切り傷や拘束されたあとがあった。しかしとくにひどいのは右手だ。切り取られていたのだから」
私はあまりの話に息を飲む。私刑というのは複数の人間から暴行を加えたりするものだ。そしてその途中でうっかりやりすぎて死んでしまった、というパターンが多い。しかし手首が切り取られたというのは、どうかしている。
「反社会的勢力の真似事かね。しかしそれにしたって指じゃなくて手首なんだから、今の子供も恐ろしい事をする」
「違う、この事件はカラミティとは関係がない」
善がまたタメ口で反論し、刑事さんはまたかという顔をした。
いつもなら通訳をするところだが、今回私はそれをしない。善が真剣な表情でスマホを見ていたからだ。
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