第11話


 咲子は肩を撫で下ろして笑った。


「何か、嬉しい話し聞けたぁ。

怖くて優しいって、そう思われたかったから、嬉しいや」

「えぇ?」

「先輩として言うべきは ちゃんと言えないといけないと思ったから。

後輩に失敗して欲しく無かったし、その為に注意して怖がられる分には構わない。

でも その分、日に1つは良い所 見つけて1人ずつ絶賛しようって」

「咲子、そんな事してたんだ……」

「上手く自分をアピール出来る子は良いけど、

そうじゃない子は、頑張っても気づいて貰えない事が多いと思う。

そうゆうの、嫌なの。努力は報われなきゃ駄目だって思う。

演劇は花形だけで出来るわけじゃない。色んな役があって、漸く1つの舞台になる。

皆が充実してなきゃ皆の演技が生かされない。私は先輩も後輩も、皆一緒に演劇がしたかった」

「……」


 あの頃の私は、何を思って過ごしていただろう……



(咲子は『失敗して欲しくない』と思って後輩達に接していて、私は……)



 咲子なんか、失敗すれば良いと思っていた。

何の努力もしないで、何でも手に入れていたから。

私と同じ、地味で目立たない小心者だと思ってたのに、勇敢で、自立してて、男子にも ひっそりモテていた そうゆう咲子に、私はイライラしていた。


(そう言えば『咲子に渡して』って、クラスメイトから預かったラブレターも、そのままゴミ箱に捨てたっけ……)


 私にも、ちょっと気になるクラスメイトがいた。

不良っぽかったけど、責任感がある硬派な感じの、ソレでいて照れ屋な男子。


「ねぇ咲子、いきなりだけど……山手やまてクンって、覚えてたりする?」

「え? ……あぁ! 優菜チャンのクラスの男の子だよね?

中3の時、体育祭で応援団長やってて、格好良い~~って、」

「そうなの!?」

「あ、ズルイ! 優菜チャンが先に言い出したんだよ!? “山手君、格好良い”って!」

「そぉ、だったっけ……?」


 その辺の事は良く覚えてないけど、咲子の言う通り、私は山手クンを意識していた。

だからって、告白する気も度胸も無かったし……山手クンはモテてたし、

ただ、気持ちの中で『良いなぁ』って思っていられれば良かった。


「咲子、山手クンと付き合ってみたいって……思ってた?」

「えぇ? そこまではぁ……うーん、ちょっと想像つかないなぁ。彼、結構モテてたでしょ?

私はリアルに二次元まっしぐらだったし、オタクの手が届く相手では無かったと思うよ?」

「……コクられたら付き合った?」

「うーーん……どうだろ? うーーん、もしかしたらぁ……

うん。山手クン相手なら、付き合ったかも知れない」

「そうなのっ?」

「すごく硬派な子だったから、誠実に接してくれそうじゃない?

私が嫌だと思う事はしないでくれるんじゃないかって。

そうゆう信用が出来ないと、付き合ってみようとは思えないから」

「……そっか、」


 咲子は奥手で、無闇に近づいてくる男子を嫌ってた。

多分、男子も そうゆう咲子の堅物さに気づいてたんだと思う。

咲子を好きって男子は結構いたけど、皆、物凄く慎重に接してた。

だから 山手クンも……

手紙なんて回りくどい物を用意して、咲子と1番仲良くしてた私に伝書鳩役を頼んだんだと思う。


(あの手紙を渡してたら、咲子は山手クンと付き合ってたかも知れないのか……)


 アッチコッチでチヤホヤされてた咲子にとっちゃ、ラブレターの1枚くらい届かなかっくても大した事じゃ無かっただろうけど、山手クンには悪い事をしたな……

でも、当時の私にとって山手クンは特別な人で、誰と付き合おうと、咲子とだけは付き合って欲しくなかったんだ。

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