第12話


 咲子は知らない。

私と山手クンとの間に、そんな小さなやり取りがあった事を……



(思い出話しは凄く楽しい筈なのに、突き詰めてくと深い溝にハマってく……)



 私は 自分のして来た事を、今日の今日まで都合よく忘れていたみたいだ。

会話が途切れると、咲子は思い立ったように話題を変えた。


「そう言えば、加奈世かなよサン達とは今も会ってるの?

あ。今はママ友になるのかぁ、心強いね」

「ぇ? ……ぁ、ううん。流石に子供がいるとね、家も離れてるし、」


 加奈世は、高校時代の友人だ。

私と違って華やかで、ちょっとギャル入ってたかな。

1年生の頃 同じクラスになって、席が近くって、何と無く仲良くなった。

加奈世に付き合って合コンに行ったり、ナンパ待ちに行ったり、地味だった私の世界観は だいぶ変化した。


 咲子とは高校は別になったけど、その頃も週末になれば『遊ぼう』の電話がかかって来ていた。

休み時間になると私のクラスにやって来ていた中学時代の咲子と、やっている事は変わらなかった。変化の無い咲子に、私は安心していた。


 高校デビューには色んな不安があったけど、私は咲子にソレを知られないように振る舞った。

順風満帆。物凄く楽しい高校生活を送っていると思われたかった。

今度こそ咲子に負けたくなくて、高校に進学しても演劇部には入らなかった。

中学時代、咲子に負け続けた過去を思い出したくなかったから。


 電話口で充実しまくっている話をして、加奈世と言う明るい友達が出来た事を告げると、

咲子は『良いなぁ~~』を連発した。

ソレが心地良くて、私は咲子からの誘いを断り続けた。

理由の殆どが『加奈世と先約がある』だったと思う。

咲子は『私も一緒に行きたい』と ねだったけど『また今度ね』と はぐらかして、1度も仲間に入れてあげなかった。

その度、私は優越感に浸って、良い気分になれた。


 そうこうしている内に、咲子は私の話を聞いて羨むだけで、ソレ以上 絡もうとはしなくなった。

ソレが つまらないなぁと思っていると『時間がある時にでも遊んでね、待ってるから』と言って、咲子が私を誘う事は無くなった。

そうゆう咲子の態度が、私は気にくわなかった。


「加奈世も子供がいるし、独身の頃みたいには遊べないからなぁ。

旦那が帰って来る前に お風呂の準備、ゴハンの支度してって、寝るまでやる事いっぱい」

「何だか大変そう……でも、ソレをこなしてるんでしょ? やっぱり優菜チャンは すごい」

「普通、普通!」

「普通なんかじゃないわ! 家族の為に頑張る何て、幸せ者のする事よ!」

「えぇ? 幸せぇ?

まぁ、こうゆう生活に慣れちゃうと、幸せって感じもしなくなっちゃうけどね」

「好きな人と結婚して、その人の子供を産んで、育ててって、大変だけど誇れる人生だわ!」

「言い過ぎ、言い過ぎぃ!

そのくらいの幸せで良いなら、咲子が その気になれば良いだけでしょぉ!」

「その気……その気と言うチャンスを逃して33才になりましたが?」

「もぉ、諦めちゃ駄目だよ! まだ33才!」

「うーん……」

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