第9話
私と咲子は中学の頃、演劇部に所属していた。
今はどうだか知らないけど、うちの中学は全国レベルの演劇部で、それなりに凄かった。
「あの時の主役の争奪戦は 怖かったぁ~~」
「アリスって主人公ってだけで、演じる上では そんなに魅力的だとは思わないけどなぁ……
あの物語は、他のキャラがあってこそだと思う」
「そうゆう咲子はぁ……ホワイトラビットだったっけ?」
「うん!」
中学2年の頃、私達 演劇部は【不思議の国のアリス】を演目にした。
誰もがアリスになりたがる中……
ツイて無い事に、ココでも私と咲子は気が合ってしまった。
――私も、ホワイトラビットが
(そうだ……そうだった……何で忘れてたんだろ……
私だって、ホワイトラビットが演りたかったんじゃないか……)
少しずつ、忘れていた あの頃の出来事が具体的に思い出されていく。
当時の私は、その辺を咲子に察して貰いたくて『ホワイトラビットのオーディションを受ける』と事前に伝えた。
すると咲子は『一緒だね! 私もなんだ! 頑張ろうね!』って、嬉しそうに言った。
1人しか役につけないって言うのに、良くそんな事が言えるなぁって……
でも、咲子には自信があったんだろう。自分が役を勝ち取る自信が。
結果、ホワイトラビットに選ばれたのは咲子だった。
もしかしたら……と、期待をしたけど、やっぱり咲子には適わなかった。
私はハンプティーダンプティーの1人に選ばれた。
『たまご型の体型が似てる』って、顧問に大爆笑された。
まぁ……ソレなりにオイシイ役どころだったから我慢できたけど、体型がコンプレックスでもあった私には辛い言われ方だった。
ソレに、練習中、ホワイトラビットを演じる咲子を見る度に、気持ちが萎えるようで……
私は必死に自分の役に没頭した。
そもそも、咲子と張り合ったのが間違いだった。
咲子は入部して直ぐに、新入生であるにも関わらず役を獲得するような子だった。
顧問も先輩も認めざる負えない、素人とは思えない、飛び抜けた表現力と役になりきる力。
その所為で、本来1人に1役が与えられる筈の舞台にも、咲子は時々2役を任せられて演じ分けていた。
そんな咲子を僻む先輩は沢山いたけど、
驚く事に、咲子は自分が嫌われている事に気づいていなかった。
あぁ、違うか……興味が無かったんだと思う。
“演劇をしに来てるだけで、好かれに来てるわけじゃないんだ”と、
私には そう言いたげに見えて、強烈な疎外感を受けた。
私と咲子は、何処をどう取っても、似た者同士では無かったんだって……
「……咲子のホワイトラビットは好評だったよ」
「本当に?」
「皆 言ってた。アリスより目立ってたって。主人公はホワイトラビットだって。
お客サンも、コンクールの審査員も」
「私、そんなに褒めて欲しいオーラ出てた?」
「事実だからね……」
そんな演劇力のある咲子でも、2度オーディションに落ちた事がある。
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