第8話
「勿体無いなぁ。
咲子がプロになったら、咲子から貰った絵、オークションで売ろうかと思ってたのにぃ」
「アハハハ! 昔からソレ言ってるよね、優菜チャン! 残念でした!」
「学校まで出たのにぃ、勿体無ぁい」
「うん。ソレを言われるとね……
今更なんだけど、漫画じゃなくて、音楽の方へ進めば良かったかなぁ、とか、
そうは言っても、道を変えたら上手くいくわけでも無いですし、色々考えさせられます」
咲子は多趣味だった。
何処ら辺で目覚めたんだか分かんないけど、バンドを組んでライブしたり、地味な見た目とは裏腹に活発だった。
「歌は まだ歌ってんの?」
「うん。たまに」
「バンド?」
「ううん。メンバーを集めるのは大変だし、面倒だし。
今は1人で下手な弾き語りをして遊んでる」
「そうなんだ、」
咲子は歌が上手かった。キレイな声で歌う子だった。
バンドのメンバーも咲子にホレて、活動にならなくなるくらい。
だから今は1人で弾き語り? 33になっても、若い頃並みにモテるって?
自信過剰は健在なんだね。
ソレが女として買い手が付かない理由なんだって、好い加減 気づけば良いのに。
「お客サンっているの?」
「有り難い事に何人か」
「相変わらずモテてるんだぁ?」
「お客様は女の人ばっかりだから、かなり気楽」
咲子の事だから、良い顔して男の客を連れ込んでいるんじゃないかって思ってたけど……
「んじゃ、こっちでライブする時は呼んでよ!」
「人様を呼びつけてまで見せるレベルではないんですけども……」
「良いじゃーん! チケット買うからさ! HP作ってないの?」
「あるけど……」
「じゃ、後でメールで送ってよ、アドレス!」
「……うん。分かった」
咲子の口調は鈍かった。
本当はHPすら見られたくないんだと思う。ソレくらい、パッとしないんだと思う。
(見た目がそこそこ優れてても、華やかな世界で通用する程じゃないんだよね、咲子は)
「私はさぁ、小さい劇団で良いから、演劇をもっかい始めたいなぁって思うんだけど、
まだ子供も手ぇかかるし、纏まった時間が取れなくってぇ」
「ママは大変ね。ちゃんと息抜きは出来てる?
優菜チャン、我慢してでも頑張る人だから……ちゃんと、旦那様に助けて貰ってね」
旦那様って……アレは そんな頼り甲斐ある男じゃないけどね。
給料も少ないし、瑠璃が小学校に入ったら私もパートに出なきゃ家計が厳しいくらいだから、
そうなれば 演劇なんて余計に出来やしないんだけど。
「大丈夫、大丈夫! 貧乏だけど生活は気楽だからぁ!
あぁ~~でも、演劇 恋しいなぁ~~」
学生時代を思い出しては、私は郷愁に駆られている。
今 打ち込めるのは パチンコくらい。
旦那が休みの時は、子供を実家に預けて旦那と2人でパチンコ屋へ行くか、子供を預けられない時は交互にパチンコ屋に行く。今の所 勝ってる。3万円ぽっちだけど。
私に合わせて、咲子は声を弾ませた。
「そうだ! ねぇ、中学の頃の不思議の国のアリス、覚えてる?」
「覚えてる、覚えてる!」
「私ね、優菜チャンのハンプティーダンプティーの役が大好きだった!
あのシーンは劇の中でも見せ場だったでしょ?
優菜チャンの愛嬌にピッタリ合ってて最高だったよね!」
「うわぁ~~確かにアレには力入ってたわぁ、私ぃ!」
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