第7話


 席に戻ると、咲子は声を弾ませた。


「何年ぶりだろう? 優菜チャンと こうやってお茶するの」

「長女が生まれて暫くだから……8年は経つんじゃない?」

「うわぁ、年取るわけだぁ」


 8年もの間、咲子は音信不通だった。

なのに、バッタリ会ってみれば悪びれるでも無い。

何事も無かったかのような態度だから、拍子抜け。


(私だけだったのかな、連絡ないのを気にしてたのは?)


 律義だけど、マメじゃない。

咲子からすれば、受け取った年賀状を見て満足していたのかも知れない。

返事なんて、気が向いた時にすれば良い……そんなノリで8年経った、みたいな。


(友達甲斐の無いヤツ!)


「ってかぁ、咲子は今、何処 住んでんの?」

「Y県」

「えぇ!? 遠いねぇ!」

「うん。新幹線だけで2時間かかる」

「何でまた、そんな離れたトコにぃ?」

「何でって事でも無いですけども」

「仕事は何やってんの?」

「クリニックで受付してる」

「病院!?」

「うん」


 意外すぎた……結構、マトモな仕事をしてるもんだから……

って、咲子の事だからロクなもんじゃないとか、そんな風に思ってたワケじゃないけど、

私が覚えてる咲子は、失恋で精神壊れかけてて、病院の世話になってる方だったから、まさか勤める側になってるとは思いもしなかったんだ。


「受付ってぇ、医療事務?」

「うん。でも、メインはドクターアシスタント」

「何ソレ?」

「ドクターの秘書かな。

カルテを書くお手伝いをしたり、スケジュールの調整をしたり。

ドクターって診察以外にも学会や お勉強会もあるから、結構お忙しいの」

「ふーん……」


 咲子の話し口調を聞いていると、咲子がとても優秀な社会人のように思えた。

丁寧で品のある話し方が、私にそう見せている。


 そこにウエイトレスがやって来て、咲子のフライドポテトとエッグタルトを並べた。

咲子は早速フライドポテトをつまみ、『美味しい!』と言って満足げ。幸せそうだ。

ソレが、私には嫌味なくらい眩しく見えた。


「病院の受付は良いけど、絵は? もう辞めちゃったの?

咲子が漫画家になるの、私、楽しみにしてるんだけどな~~」


 私達は、絵を描くのが好きだった。

同じ趣味だったから、良く一緒に描いていた。

そんな咲子の将来の夢は、“漫画家になる事”だった。


「ソレがぁ、残念だけど……私に漫画家は無理でした」

「え~~! 咲子、上手かったじゃーん!」

「うふふふ! そう。自分でも結構 良い線いってるって、内心 思ってたんだけどね、

絵の学校に進学して同級生の作品見たら、自信過剰が吹っ飛んだ」

「へぇ!」


 咲子は絵が上手かった。

中学の頃、自作の漫画を描いては、『読んでくれ』と言って私に持って来た。

結構 面白かった。だから私は、絵を描かなくなった。

子供ながらに、『圧倒的な実力の差』と言うのを感じて描き続ける事が出来なくなったんだ。

お陰で、絵を描く自体を嫌いになった。

咲子には逆立ちしたって適わないんだと、知らしめられるようで。



(結局、咲子にも才能は無かったんだ!)



 そう思うと、気持ちが楽になった。

あの頃に抱いていた無念さが解消されるようだった。

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