第4話
「優菜チャン、教育がしっかりしていらっしゃる! リップサービスが素晴らしい!」
「ぁ、あぁ、……いやいや、教えてないから、そんな事、子供は嘘つかないから、」
「そう? 子供って そこら辺は大人より賢いのよ?
でも、瑠璃チャンの方が可愛いわぁ。おばチャン、悔しい~~」
咲子がわざと嫉妬してみせると、瑠璃は上機嫌になってはしゃいだ。
「おばチャンじゃないよぉ! お姉チャンだよぉ! すんごぉいキレイ! カワイイよ!」
「ありがとぉ! じゃぁ、瑠璃チャンと同じくらい可愛いでも良い?」
「うふふふ~~イイよぉ!」
咲子、子供相手でも口が上手い。瑠璃は有頂天。
(そう言えば、咲子は人を煽てるのが上手かったっけ。
見た目も そこそこ良くて口も達者で調子が良いから、男は直ぐ騙される)
「咲子、まだ独身?」
「うん。順調に売れ残って33年目」
「アハハハハ! 良いじゃん良いじゃん! 独身 羨ましぃよぉ~~」
「そう? 独身もこじらせると大変なんですって。自由気ままに好き勝手する癖が直せなくなる」
そう言いながら、咲子は瑠璃の目線にしゃがんで、頭を撫でたり、襟を直してあげたり。
瑠璃も構われて嬉しそうだ。
(やっぱり、子供が欲しかったりすんのかな?
まぁ、そうだよねぇ? 女なんて皆そんなもんだから)
自分の子供が友達に可愛がられるのは気分が良い。
ソレが、咲子のような独身女なら尚の事。
「でも、咲子が元気そうで良かったよ」
「ありがとう。辛うじて生きてるって感じですけども」
「!」
咲子が生きてるのか、死んでるのか……
余り良い想像をしていなかった私は、胸の内を見透かされたような気がして息を飲んで誤魔化した。
「さ、咲子、なに言ってんのぉ、」
「ふふふ。あぁ、ホラ、帰って来たばかりの瑠璃チャンを待ち惚けさせたら可哀想。
お姫様に会えて良かったわ。ソレじゃ、私は行くね」
「ぁ、咲子、」
「ん?」
「……気ぃ付けて帰ってね、」
「うん。優菜チャンも瑠璃チャンも」
咲子は手を振って去って行った。
瑠璃は咲子の背を目で追って、見えなくなると私に抱きついた。
「うふふ~~瑠璃、お姫サマだってぇ~~」
「はいはい」
「ママもさぁ、あのお姉チャンくらいキレイだったら良かったのにねぇ?」
「ッ、」
子供は正直だ。
特に うちの子は、遠慮を知らない毒舌だ。
「あの お姉チャンは結婚してないし、子供もいないのッ、ママとは違うの!
だから、アレくらいキレイなのは当たり前なの!」
「じゃぁ、ママも昔は あんなにキレイだったの!?」
ソレ、どうゆう意味だよ、
(こっちは家事と子育てに追われて、化粧する暇も無いんだから!
ソレに、キレイだろうが何だろうが、独身こじらせてんじゃ惨めなだけだから!)
「もう帰るよ!」
(でも、平凡さの無い咲子じゃ、女として幸せになるのは難しいんだろうなぁ)
帰り道、学生のカップルを横目に見ても、不思議な事に、羨ましいとは思わなくなっていた。
結局の所、ああして青春を謳歌できたとしても、結婚や出産と言うゴールに辿り着けるとは限らない。
咲子のように好い年して売れ残りになっちゃえば、貰い手も無く孤独にしかなれないんだから。
そんなの、私には受け入れがたい。
(結婚して子供もいる、平凡な家庭を築けてる私は幸せ!)
こうして娘の手を引いてるだけで、私の幸せは誰の目から見ても確信的だ。
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