第3話

「って、咲子、元気してた!?」

「うん。元気だったよ。

今日は久々に実家に戻って来たんだけど……優菜チャンは、お友達とお出かけ?」

「違うよ、幼稚園バス待ってんの」

「そう! 上のお子サン?」

「違うよぉ、上はもう小学2年生。下の瑠璃が年長サン」

「そう! じゃぁ……もしかして、ココで待ってたら会えたりする?」

「うん! 会ってってよ!」


 咲子は赤ん坊の頃の長女には1度会ってるけど、次女の瑠璃には会った事が無い。

年賀状で近況を知らせてはいたから、2人目がいる事に驚かない所を見ると、咲子の手には ちゃんと届いていたんだろう。


(じゃぁ何で、何の連絡もして来ないんだって……)


 同窓会とか、若い頃の付き合いを避けたがる人って、不安定な生活を送ってるって聞いた事がある。咲子も同じようなもんだろうか?


(まぁ、昔の事 知られてるって、弱味を握られてるような気にもなるから、

咲子には、そうゆう思いがあるのかも)


 私は小学2年の頃から、咲子を知っている。

地味で目立たず、小心者な私と同じ側にいた咲子を知っている。

ソレなのに男にモテモテで、そのクセ、恋愛は全く上手くいかずに男にポイ捨てされた可哀想な咲子を知っている。

フラレたショックから立ち直れずに、長い事 塞ぎ込み続けた咲子を知っている。



(――私は、咲子の黒歴史を知っている)



 何か、優越感。

高飛車なママ友は、今の咲子を前にしては引っ込まざる負えないみたいで、静かにフェードアウトして行った。

あのママ友には皆して頭が上がらなかったから、コレもちょっと優越感。


(流石、咲子だわ)


 学生時代が終わって、制服を着なくなって、化粧を覚えて、咲子の素材の良さが生かされるようになった。

その時 私は初めて、咲子の正体を知ったんだ。

顔が小さくて、目が大きくて、睫毛が長くて、華奢で……

って、兎に角、男が好きそうなパーツと雰囲気が揃ってたって事。

だけど、本人にその自覚は全く無く、そんな咲子を私は――


「咲子、さっき“戻って来た”ってけど、コッチ住んで無かったんだね?」

「うん。でも、たまに。用事がある時は帰って来るよ」

「ふーん……今日は?」

「少し前に祖母が亡くなって49日になるから、今日は実家に泊まって、明日お墓参りに行こうと思って」


 咲子は私が質問した以上の事は答えなかった。

見た目とは裏腹に、今もパッとしない人生を送っている事を知られたくないんだろうか?



(まだ引き摺ってんのかな、フラレた事……)



 まぁ、フラレたショックが大きすぎて、咲子はとんでも無い大事件を起こしちゃったからね、

嫌な思い出が多すぎて、地元に住み続けるのはキツかったんだろうね。

そう思うと、余計にアレコレ聞きたくなって……と、そんな所で、幼稚園バスがやって来た。


 バスが停まって降車扉が開くと、娘の瑠璃が駆け降りて来る。

そして、いつもなら『ママぁ!』と大騒ぎして抱きつくのに、今日は私の隣にいる咲子を見て、キラキラと目を輝かせた。


「キレイ! ママ、この人誰!? 誰!?」

「ママのお友達」

「スゴぉい! キレイ! キレイ! お洋服もカワイイ! すっごいカワイイ!」


 咲子、こんな子供にまで言わせるか……

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