第2話


「ふわぁ~あ~~」


 大口あけて大あくび。

他にも お迎えに来てるパパママがいるけど構わない。

皆、振る舞いは似たり寄ったりだから、口も押えない大あくびの私を『はしたない』何て思う人はいない。

ちゃんと子供も産んで育ててるし、ソレなりに苦労もしてるんだから、多少の粗相は世間も目を瞑ってくれるような気がしてる。


「アラぁ。こんにちは、瑠璃ちゃんママ。バス、遅れてるみたいねぇ」

「あぁ、そうですねぇ」

「困るわよねぇ、主婦だって暇じゃぁないって言うのにぃ」

「そうですねぇ」


 結婚してから、名前を呼ばれなくなった。

初めは ご近所から『奥サン』って呼ばれるのが嬉しくて、独身の友達より1歩リード出来た様な気にもなれて優越感もあったけど、

旦那に『お前』って呼ばれるようになってから、奥サンの呼称も煩わしくなった。

子供が出来ると子供の名前の後に『○○ママ』を付けられるようになって、

自分は母親になったんだ! って自信に繋がったから良かったけど、そうでも無かったら――



(……あれ?)



 目の前を通り過ぎる、何処か懐かしい面影。

白いレースのワンピースに赤いパンプス、白いハンドバッグ。細い手足。

まるで、映画の1シーンを思わせる歩き姿に目を奪われた。



「さ、咲子っ?」


「?」



 私の声に立ち止まった。

そして、大きな目が向けられて、長い睫毛がパタパタ上下して、

呆けた その表情は、次第に笑顔になった。まるで、花が咲くように。



「優菜チャン?」



 久し振りに名前を呼ばれた。



(咲子、生きてた……)



 私は夢見心地でいた。

咲子を頭のてっぺんから足の爪先まで何度も見やった。

だって、あんまりにも咲子が少女のように瑞々しく、潤っていたから……


「瑠璃ちゃんママのぉ、お友達?」

「え!? ……あぁ、そう! 同級生!」

「同級生なの!?」


 いつも高飛車に振る舞うママ友が、咲子を前にビックリ顔。

敗北感 丸出しで『まるで30代には見えない!』と言いたげに、舐め回すように咲子を見てる。

こうゆう露骨なリアクションをする人を見るのも久し振りだ。


「咲子、相変わらずキレイだね……」

「えぇ?」


 うっかり口を滑らせてしまった、、


「ぃゃ、……キレイにしてるなぁと思ってぇ、」

「ハハハ。若作りしすぎだよね、

優菜チャンと会えるって分かってたら、もっとちゃんとして来たのに、

好い年して、落ち着きなくて恥ずかしいね、」


 オイオイ。

自分には似合うと思って、そんな若い恰好してるんでしょぉが……

相変わらず今更な事を言ってるよ。私への当てつけか?

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