第5話


 夕方、旦那が帰宅すると、私は夕食の支度をしながら早速 咲子の事を持ち出した。

相変わらず独身である事を伝えようとすれば、瑠璃が首を突っ込むもんだから話は脱線。

『お姫様みたいにスゴくキレイだった!』とか『ママと同い年には見えない!』とか散々騒いで、そうなると、長女も興味津々で咲子のアレコレを知りたがる。

私が簡単に咲子の人となりを話すと、旦那は

『ママみたいなデブでブスじゃない。アニメのヒロインみたいにキレイだよ』って。

最終的には、『お前も咲子チャンを見習って少しは痩せろよ!』と文句を言う始末。

アンタが そうゆう言い方するから、娘達が真似するんじゃないかぁ……


(ってか、お前も120キロ超えのデブじゃんかよ!)


 私も旦那も、若い頃から太ってた方で、この10年余りで お互いに20キロは増えたかな……

私は産後太りが止まらず、お腹はタプンタプン。

ボトムのウエストから贅肉が雪崩落ちちゃって、こうなったら手が付けられない。


(咲子は相変わらずスマートだったなぁ……)


 学生時代と変わらない……のでは無く、華奢であっても女らしいスタイル。

都会的で、モデルみたいで、実年齢より10才は若く見えた。


(あの見た目なら、若い男にも相手にされそう……

今もモテモテなのかな? だから結婚もしないでいられるのかな?)


 昼間 見かけた咲子に孤独な影は見えなかった。

今が充実してるから、あんなにも輝いていられるんじゃないか……

若かった過去の自分を引き合いに出しても、今の咲子に勝てそうにない。

考えたらキリが無くなっていた。


「ねぇ、次はいつ会えるか分かんないから咲子と会いたいんだけど、お茶して来ても良い?」

「今から? メシはどうすんだよ? 片付けは?

流し台に置きっぱなしで出かけるんなら、そんなん許さねぇからな。やる事やってからにしろ」

「分かってるよ! 片付けるし、子供達もお風呂に入れてくし!

だったら文句ないでしょッ?」


 うちの旦那は、家事や子育ては女だけの仕事だと思っている。

たまに娘達をあやして遊んでやる自分が、面倒見の良い父親で、献身的な夫だと誤解している。

私も社会人を経験してるから仕事の大変さは解かるけど、家事と育児には退社時間も無けりゃ休日も無いんだよ。

たまにリフレッシュするくらい、快く受け入れて欲しい。


 旦那の許可を得て 咲子に誘いのメールすると、返信は早かった。

20時頃に互いの家の中間にあるファミレスで落ち合う事になった。

普段の倍速で家事をこなし、自転車でダッシュ。

すると、店前でタイミング良く咲子と鉢合わせる。


「もしかして、丁度!?」

「うん。丁度」


 出会った頃から、こうゆうタイミングがピッタリ合う。

ソレが親友の証のように感じていた。


「優菜チャン、こんな遅くに出て来て大丈夫だったの?」

「遅くって、まだ20時じゃん」

「でも、ママがいなくて お嬢サン達 寂しがってない?」

「旦那がいるから平気。

ソレに、長女まで一緒になって“美人のお姉サンにヨロシク”って」

「ハハハ。メイクに手を抜かなくて良かったです」


 普通なら『そんな事ないよ~~』って謙遜する所なんだろうけど、咲子の言い回しは毎度こんな感じ。

こうゆうのがきっと、男心をくすぐる素直さに見えたりするんだろうな。


(私相手に そんな事する必要ないのにさ)


 “私は そこいらの女とは違いますよ?”的な事を言いたいとか?

好い年した独身は必死だね。


(わざわざ着替えて来るってのも、何なのかなぁ)


 昼間 着ていた白いワンピースじゃ無く、少しラフで、

でもオシャレで若々しい星柄の可愛いチュニックに、ブラックのスキニージーンズ。

レストランに入店してウエイトレスに案内されて席につく間も、他の席のお客が咲子を見ていた。

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