第8話 11月 最後の付箋
「先輩、どういうことですか!」
今まで聞いたことがない声だ。
江島が怒っていた。
泣きながら。
「言うのが遅れたのは謝る。すまん」
俺は頭を下げる。
お祭りから早三ヶ月。江島や牛久が受験勉強でバイトにあまり来なくなり
俺は俺で、自分の書いたシナリオを読んで気に入ってくれた映画関係者との
話が進んでいた。
「バイト、辞めるんですか」
「ああ」
「何でですか」
「俺の書いたシナリオが映画作ってる会社に認められてな。
うちに来ないかって言われてたんだよ」
「いつからですか・・・いつから」
彼女の頬を涙が伝い、床に落ちる。
正直、ここまで怒るとは思わなかった。
俺がバイトを辞める事はギリギリまで伏せときたいって店長も
言ってたのにな。
どうやら俺は、バイトでそれなりに人望があったらしい。
「君が辞めたらみんな悲しむからね。でもおめでとう。
やっと君の脚本が認められたね」
店長は俺がバイトをしながら映画のシナリオを書いていることを知っている
人間だ。
「今までありがとうございました。頑張ります」
俺は笑顔でそう答えた。
どうやらそのやり取りを聞かれたらしい。
「お前も東京の医大に受かれば立派な大学生だ。
自分で生活するためにバイトしてたんだろ?」
「今は私の話じゃないです!」
泣きながら彼女が怒鳴る。
「お前の話をしたいんだよ、俺は」
「!?」
彼女が驚く。
「江島、お前は沢山勉強して絶対医者になれ。
お前ならいい医者になる。俺が断言してやる」
「なんで先輩が・・・」
涙を拭いながら俺を睨む。
「だから、頑張れよ。俺も頑張るから」
「ずるいですよ」
そう言って彼女は、俺にくしゃくしゃにした紙を投げつけ休憩室から
出て行った。
それは赤い付箋だった。
そこには
「私と付き合ってくれませんか? YESorNO?」
「口で言えよ、馬鹿野郎」
俺は思わず天井を仰ぎ見た。
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