第7話 紙に込めた願い

「すごい賑わいだな」


紙白神社は地元で有名で神社だ。特に恋愛成就にご利益があるらしい。

神社で売っている紙守りに好きな人の名前を書き、境内を通る川に

流すことで願いが叶うそうだ。

しかも8月8日が一番効果があるらしく、毎年その日にお祭りがある。


「ちょっと、あの人怖くない」


「一人で来てるのかな?」

俺が人の多さに辟易していると、友達同士で来たのだろう

若い女の子達が俺を見てヒソヒソ話していた。


「はぁ〜俺には難易度が高すぎる」

こんなでかいマッチョなおっさんが、一人でいれば当然周りから

浮きまくりだ。


「本当にこの中にいんのか」

人で溢れかえる神社の入り口で俺は立ち尽くした。





「だから、私達待ち合わせしてるって言ってるじゃないですか」


「いや〜あまりに可愛いから思わず声かけたんだよね〜」

立ち止まっていると、いつも聞いてる牛久の声が聞こえた。

いつもよりだいぶ嫌そうな感じだが。

俺は声がした方へ歩き出す。


「いい加減にしないと警察呼びますよ」


「そんなこと言わずに一緒に回らない?」


「嫌です」


「そこをなんとかさ〜」


「だから男の人と待ち合わせていると言ってるでしょ」


「え〜、いいじゃん。俺たちも仲間に入れてよ」


それらしい人影を見つけると、2人のチャラそうな男に

絡まれていた。俺は無言で近づく。


「おい」


「あ、なんだよ、おまえ・・・は?」


「なんだテメェ・・・え?」


声をかけた俺に馬鹿二人が振り返ると同時に固まる。


「あ、先輩、遅いですよ。もう6時過ぎてますよ」


馬鹿二人の後ろから顔を出した牛久が俺に怒る。


「悪かったな。人が多すぎてすぐ来れなかったんだよ」

俺は馬鹿二人から目を外さず牛久に返す。


「乙女を待たせるなんていい度胸です」


「乙女って自分で言うな」


「あ、あの」

俺たちの会話に馬鹿Aが、恐る恐る声を出す。


「なんだ」

俺は馬鹿共に視線を向けているので、二人は完全に萎縮していた。


「お連れさんですか?」


「ああ」


「あはは、いや〜本当にいたんすね」


「ああ」


「そ、それなら俺たちは必要ないっすね」


「そうだな」


「「し、失礼しました」」

固まって声も出せない馬鹿 Bを連れ、馬鹿Aは人ごみに消えていった。


「悪かったな、遅くなって」


「いいですよ、正直来てくれると思ってなかったですから」


「おまえなぁ」

やはり冗談の類だったのだろう、今時の若い子に騙されたのか。

俺は自分の馬鹿さ加減にため息を吐いた。


「あ、来てくれたら嬉しいなと思ってましたよ。先輩冗談通じませんし」

牛久がニコニコと笑った。


「喜んでいいのかわからねぇぞ、それ」

牛久の言葉に嘘がないのは俺にもわかり、少しホッとした。


「喜んでいいに決まってるじゃないですか。可愛い女子高生3人と

 一緒にお祭りに来てるんですよ」

頬を膨らまして怒る牛久に、それもそうだなと苦笑した。


「こんばんわ、先輩」


「本当に来たんですか。おめでたいですね」

牛久の後ろにいた白い浴衣を来た櫻井さんと、青紫の浴衣の江島が

声を掛けてきた。


「へぇ〜。白い浴衣も綺麗なもんだな」

白生地に赤や青の金魚が描かれた綺麗な浴衣の櫻井さんが微笑む。


「ありがとうございます。先輩。私は高校は卒業してしまいましが」

笑いながら牛久の女子高生3人という発言を訂正した。


「いや、そんな変わらんだろ。櫻井さんは美人だしな」


「・・・先輩、あんまり女の子に軽々しくそう言う事言わない方がいいですよ」

櫻井さんが俺を睨む。心なしか頰が少し赤いようだ。


「私たちお邪魔ですかね〜。みさきちゃん」


「そうですね。二人で回りますか」

俺たちの会話を聞いていた牛久と江島がわざとらしく話す。


「はいはい、牛久のオレンジの浴衣も似合ってるよ」


「なんか反応違くないですか!?芸能人と一般人くらい」

牛久が頬を膨らまして怒る。


「江島はその浴衣・・・」


「なんですか。母のお下がりですが似合ってませんか?別にいいですが」

髪を直しながらメガネの奥で俺を睨む。


「いや、すごく似合ってるよ。正直驚いた」

青紫の生地に銀色の手毬があしらわれた綺麗な浴衣。映画の女優が

着そうな浴衣が江島の体型に見事に合わせられていた。


「そ、そうですか」

江島が珍しく、照れていた。


「先輩、女の子は江島さんだけではありませんよ」

櫻井さんが少し拗ねたような声色で言う。


「ああ、悪い。本当に綺麗だったもんでつい」


「あ、あまり見ないでください。警察呼びますよ」

照れても江島の毒舌は健在だった。




「今日は先輩におごってもらいます。女の恨みです」

牛久の言葉を皮切りに俺たちは色んな出店を見て回った。


金魚すくい

「先輩、下手すぎます」

赤、黒の金魚を捕まえた江島に対し俺は0匹。


「しゃ、射的ならなんとか」


射的

「ありがとうございます、おじさん」


「お嬢ちゃん強すぎだよ。勘弁してくれ」


「・・・」

景品を5個も取った櫻井さんに対し俺は10円ガム一個。


輪投げ


「やったーぬいぐるみ、ありがとうございます先輩」


「いや、あげる前に取られてもな」

牛久の欲しがっていたぬいぐるみがたまたま取れたなんだが。

本当は横の綺麗なブックカバーが欲しかったとは言えない。


(江島に似合いそうだったんだが)


他にもフランクフルト、たこ焼き、クレープなど俺は若い女子パワーに

振り回されながら、祭りを楽しんだ。


「そうだ、紙守り買っていっていいですか?」

牛久が売店を指差す。


「おう、いいぞ」


皆で売店に行き紙守りを買う。

それぞれ、願い事を書き、境内の中にある川にやってきた。


「先輩はなんて書いたんですか?」

俺の横で紙守りを流そうとする江島が効いてきた。


「あ?お前が医大受かるようにって書いたけど」


「え?」

驚いた江島の手から、紙守りが落ち、川に流れていく。


「あ、お前もう少し優しく流せよ。大事な願いだろ」


俺は自分の紙守りを丁寧に流した。

ゆったりと流れていく紙守りを見ながら俺は笑った。


江島はいつまでも固まっていた。



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