第4話 忘れていた付箋と誤解のハグ

「シナリオのジャンルは?本屋でエロ本?違うわ!」


思わず白い付箋を机に叩きつけた。


付箋はひらりと力なく机に落ちる。


「どうしたんですか先輩?」

俺の怒りの声に仕事中だった牛久が現れた。


「いや、昨日江島が拾った付箋にアホなこと書いてあったから

 思わず突っ込んじまっただけだ。気にすんな」


「え!また貼ってあったんですか。物好きな人もいるんですね」


大きな目を開けて驚いている牛久。


「色々失礼だな。俺にも少しは興味を持ってくれる子がいるんだよ」


「でも、絶対悪戯ですよ、それ。女の子とは限りませんし」


「バーカ。この綺麗な字は絶対女の子だろ」


「バイトの高橋君も綺麗な字書きますよ。先輩と違って」

俺の横に来て付箋を覗き見る牛久。


茶色のポニーテールが揺れた。


「・・・わかった。ちょっとあいつシメてくる」


「ちょ、冗談ですよ、冗談。高橋君の字じゃありません」

腕をまくり今レジを打っているであろう高橋の元へ向かおうとする俺を

慌てて止める牛久。


「おい、俺は冗談通じねぇんだ。だから聞くがこれはお前の悪戯か」


牛久に顔を近づけ俺は言う。できるだけ無表情なのがコツだ。


「っ!ち、違いますよ。私じゃありません。ほ、ほんとですから。

 てゆーか近い、顔が近い」

手首を掴まれ逃げれない牛久。


「じゃあ誰が犯人だ。言え。今ならデコピンで許してやる」

牛久は犯人を知っている、俺の感がそう言っていた。


「だ、だから知りませんよ、櫻井さんあたりじゃないですか」


「何、マジか!」

俺は牛久の手首を離した。


「キャアア」

急に離された牛久がバランスを崩し後ろに倒れそうになる。


「あぶねぇ」

後ろはDVDの棚だ。

慌てて俺は彼女を引き寄せた。


バフ!


「もう、急に離さないでくださいよ、先輩」


思わず抱きよせる形になってしまった。


「あ、悪かった」

俺と彼女が離れようとすると、


「楽しそうですね。先輩」


「「え!」」

そこにはバイトに来た江島がいた。


「いやこれは」


「そ、そうだよ、みさきちゃん。これは偶々たまたま

俺と牛久は慌てて離れた。


「別にあまりにもモテない先輩とたつきちゃんが抱き合っていても

 私は気にしませんが。周りからは犯罪者扱いされそうですが」


案の定、毒舌を吐きながら更衣室へ消えた。


後に残された俺は牛久に謝った。


「悪い、俺がいけなかった」


「い、いえ悪ふざけした私も悪かったし」

手首をさすりながら彼女が言った。


「手首、痛かったか?悪い」

俺は頭を下げた。


「だ、大丈夫ですよ。このくらい。それよりみさきちゃんに

 誤解だって言わないと・・・」


「は?江島に。いや、あいつはわかってんだろ。牛久が

 俺に興味ないこと位」

更衣室に向かおうとする彼女に俺が言うと、


「先輩はそんなだからモテないんですよ」

呆れた表情で俺に文句を言い牛久は更衣室へ消えた。


「いや、俺がモテないのとは関係ないよな・・・ないよね?」

誰もいない部屋に俺の疑問がこだました。


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