第10話 押しかけ弟子、おっちゃんと交流する

 こうもいい匂いを嗅いでいると、小腹が空いてくるな。

 情報収集がてら串焼きでも買うかな。

 そう決めた俺はいくつかの屋台を見て回り、一番美味しそうな匂いがする串焼きの屋台から購入することにした。


「おっちゃん、串焼き1本頼むわ」


「あいよ!」


 銅貨5枚を出すと、頭に黒い布を巻いた大柄なおっちゃんは威勢のよい返事をしてくれる。

 手早く焼き上げた串焼きの上から、おっちゃんは白い粉末を振りかけた。


「お、おっちゃん!今振りかけたのって?」


「あん?塩だよ、塩」


「塩!?」


「あんだよ、でかい声だして。塩なんて今の王都じゃめずらしいもんでもないだろうが。ほれ、できたぞ」


 近くに海がない王都にある屋台での串焼きで塩が使われている。

 驚きのあまり、声が大きくなってしまった。

 物流が安定してよいのか、近くに岩塩の採掘場があるのか。

 それを聞く前に、まずはおっちゃんから受け取った串焼きを一口。


「あっつ、はふはふ……うまっ!おっちゃん、うまいよ!」


「あったりめぇだろうが!なんせオレ様が丹精込めて焼いたんだ。うまくねぇわけがねぇだろうが」


 アツアツの肉を飲み込み、おっちゃんの串焼きをほめる。

 強面のおっちゃんが嬉しそうにニヤニヤしているのだが、体格もあいまってぱっと見の威圧感が半端じゃない。

 この店の一見客は少なそうだな。


「でもさ、海から離れた王都で塩って高いんじゃない?おっちゃん、赤字にならないの?」


 串焼きを少し冷ます間の雑談を装って、おっちゃんに問う。

 王都の外から来たことを暗に示しながら。


「赤字じゃ商売にならんだろうが。お前さん、最近王都に出てきたばっかりか?少し前に王都の近くで岩塩の鉱脈が発見されたんだよ。そのおかげで、今までの半分以下の値段で塩を仕入れられるようになったんだ。うちの串焼きは塩が命だからな」


 呆れたような視線をこちらに向けながら、岩塩の鉱脈が近くにあることを教えてくれる。

 串焼きを買ったからってのもあるだろうが、強面なだけで親切な人なのだろう。


「そうなんだ。塩が手に入りやすくなったのは俺らにとってもありがたいね。こんなにうまい串焼きが銅貨5枚で食えるんだから」


「おう!いつもこの辺でやってっから、また食いたくなったらいつでも来い」


「おっちゃん、ありがとう」


 次の客が来たタイミングでおっちゃんに手を振り、屋台を離れる。

 海塩の流通量は、岩塩の鉱脈が発見される前と比べて低下している可能性があるな。

 海に面した領地を持つ領主の中には、多少不満を覚えている者がいるかもしれない。

 とはいえ、そこまで深刻な問題にはならないから、姫の協力者にはならなきゃいけないほど困窮しないだろうな。

 串焼き片手に考え事をしながら歩いていくと、穏やかならぬ人の声が聞こえてくる。

 途切れ途切れに聞こえてくる声が気になった俺は、声の発生源に近づくことにした。


「……ってんのか、てめぇら!ああ!?」


 わめき散らしているのは、赤い髪を逆立てた目つきの悪い男。

 男の後ろには、何の紋章も掲げられていない立派な馬車。

 対するは地面にうずくまり、子供を抱えている女性。

 逆立つ赤髪の男の両隣には、同じ鎧を身にまとった者が二人。

 馬車は止まっているが、まだ誰も剣を抜いてはいない。

 それならなんとかできる、かな。

 ただ見ているだけの野次馬をかき分け、俺は怒鳴っている赤髪に近づく。

 さて、痛いことにならないといいんだけど。

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