第9話 押しかけ弟子、王都の状況を確認する

「さてと、まずは王都の雰囲気の確認だな。かれこれ十年近く来てないから今の状況を仕入れないことには何も判断できん」


 王城を出た俺は、独り言ちながら、王都の中心にある噴水広場へと向かう。

 お上りさんに見られないよう気を付けつつ、歩きながら周囲の状況を見る。

 王城とつながる表通りは活気にあふれ、人や馬車が行き交っている。

 王城の周辺こそ、防御陣としての役割を担うため、曲がりくねったような道になっている。

 しかし、城下町としての王都は違う。

 統治することに振り切った設計をされているため、無数の正方形をきれいに並べた区画配置になっている。

 王城の城前通りは、多くの商店が連なっており、王都の中でも人口密度が高い場所として有名だ。


「王城の門前通りなんて地価の高いところに店を構えてるだけあって、どこもかしこも高級品しかないな。冷やかし半分、実際の買い物半分、てところか。王都の金回りがいいというのは事実のようだな」


 ゆっくりと周りを見て回りながら、独りごちる。

 首都を中心に貨幣経済が発達し、首都から離れるほど貨幣の重要性が低下していく。

 これは大国であろうと、小国であろうと、どこの国も変わらない。

 例外は、辺境伯が置かれているような国土防衛に重要な最前線の領地だが、今は割愛する。

 王城を背に、外壁方面へと向かって歩く。

 行き交う馬車。

 すれ違うたびにいくばくかの言葉を交わしながら、さまざまな店に出入りしている執事服の男たち。

 威圧感すら感じるほどのしかめっ面の女性を先頭に歩いてくるメイド服の女性の一団。

 慌てて壁際により、道を譲る気がないメイド服の女性の一団をやり過ごしてから、再び周囲に視線を配る。

 歩いている者の中には、使用人にも、貴族にも見えない者がいる。

 彼ら彼女らは、王城や貴族お抱えの芸術家たちだろうか。

 喧騒の中、ゆったりと歩いていく芸術家たちは、貴族よりも貴族らしいと言えるかもしれない。


「うーん、この賑わいが通常通りなのか、今日だけ特別なのかの判断がつかないな」


 歩いていくうちに、ようやく噴水広場にたどり着いた。

 ここは噴水を中心とした円形広場になっており、王都に住む者たちの憩いの場になっているそうだ。


「ここが、かの有名な噴水広場か。そして、その噴水の中心の柱に刺さっているのが勇者の剣、と」


 周囲を行きかう人々にぶつからないように気を付けながら、噴水へと近づいていく。


「衛兵はいるが、とくに剣を注視している様子はないな。本当に本物の勇者の剣なのか?」


 噴水の中心には、目線の高さより少し上ほどの長さの柱がある。

 そして、その柱のてっぺんには、一本の剣が突き刺さっている。

 この国の建国者であり、勇者王と名高い初代国王リュート・の剣と言われている。

 王国が建国された当時を詳細に示す記録はなく、我が師匠である賢者が自称生き証人として、口伝した内容が当時の弟子によって書物に書き起こされているにすぎない。

 よって、賢者を怒らせる必要もないため、勇者の剣はおろか柱自体も詳細な調査は行われていない。


「それにしても、雨ざらしになっているはずなのに剣自体が綺麗すぎる。勇者がいたと言われている年代が正しければ、最低五百年以上は経っているはずなのだが」


 剣身の幅や長さのバランスから考えるに、せいぜい四分の一程度しか刺さっていない。

 通常の剣であればあり得ないことだが、その剣は柱の上で直立し、微動だにしない。

 勇者の剣の力だと言われれば、多くの人が納得してしまうのは思考停止もいいところだと思ってはいる。


「こいつの調査は後回しだな。噴水広場の先からが平民の区画と。平民の区画であれば、他の街との比較もできるだろう」

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