第6話 押しかけ弟子、種明かしをする (その1)

「カールヒェン様、私はエルフの血を半分だけ引いています。これで、どうしてお知りになったのか、答えてくれますね?」


 王女殿下の口から、彼女に流れる血筋を聞くことができた。

 次は、こちらが気づいた理由を説明する番だ。


「では、次はこちらの番ですね。まず、大前提として、先ほどまで俺は王女殿下にエルフの血が流れているとは知りませんでした」


「貴様、まだ言うか!」


 堪忍袋の緒が切れたのか、頭を抑え込んでいるメイドのエルフが怒鳴りつけてくる。

 頭の骨がきしんでいるような気もするが、今は痛みに気を取られている場合じゃない。


「なぜ俺が王女殿下の血筋に気が付いたのか。一番のヒントはそう、今まさに俺の頭を押さえるメイドのあなたです」


 俺の言葉に、わずかながら頭を押さえる力が緩む。


「王女殿下と俺のカップを替えようと前かがみになったとき、あなたの髪が垂れ、長く尖った耳が見えました。いえ、人間であれば終わるはずのところで終わっていない耳、という表現のほうが正しいでしょうか。そして、襟で見えにくくしていますが、首元には首輪があることも」


 王女殿下の視線が、俺の顔から上にズレる。

 おそらく、俺の頭を抑え込んでいるメイドの首元を見ているのだろう。


「あっ……」


 王女殿下が小さく声をあげ、両手で口元を押さえる。

 体制的には、先ほどカップを替えたときと同じくらい前かがみになっているはず。

 となると、襟元にある首輪の上端が見えたのだろう。


「そこまでわかれば、想像するのはたやすい。彼女はエルフですね?」


「……そう、です。彼女、カティアはエルフです」


 困ったように眉根を寄せていた王女殿下だったが、しばらくして諦めたように頷いた。

 俺の頭を押さえ込んでいるメイドはカティアというのか。

 覚えておこう。


「第四王女殿下。あなた、もしくはあなたの母君には、何かあると思っていたのです。現王の子は十人います。産まれた順であれば、あなたに割り当てられる王位継承権は第六位になる。しかし、あなたに割り当てられている王位継承権は第十位。第六位も、第十位も変わらないという人もいますが、俺からすれば大きな違いです。これが、あなた、もしくはあなたの母君には何かあるのではないかと考え出した最初のきっかけです」


 とはいえ、今はエルフメイドの名前は重要ではない。

 種明かしの続きをしよう。


「最初?」


「ええ。次のきっかけは、あなたが当代一の姫騎士と呼ばれるほど、騎士団に関わっていることです。どんなに継承権が低くとも、大半の王族は政に関わっていきます。しかし、あなたは一向に政に関わるそぶりを見せない。むしろ、あの騎士団の堅物団長が娘のように気にかける王族は、あなたしかいませんよ」


「堅物団長って……ガーランド団長!な、何かおっしゃっていたのですか!?」


 口角を最大限引き上げ、にこやかに見えるよう意識をした笑みを作る。


「こちらの応接室に入る前に呼び止められましてね。『うちの姫さまに近づきすぎるんじゃねぇぞ』と。娘に近づいた悪い虫を追い払うかのような形相でしたよ」


 応接室に向かうよう声をかけられた直後、ガーランド団長から声をかけてきたのだ。

 口ひげをたくわえたスキンヘッドの強面騎士団長の脅しつける表情は、あたかも娘を守りたい父親そのものだった。

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