第5話 押しかけ弟子、王女殿下の血筋に気づく
「王女殿下。あなたは、エルフの血を引く者、ですね?」
言い終わるか否か。
そんな瞬間的なタイミングで、メイドのエルフが俺の後ろに回り込み、頭を鷲掴みにされ、首元には冷たく硬いものが押し当てられる。
バターナイフのような調理器具、もしくは携帯性に特化させたナイフだろう。
「……ご存知だったのですね、カールヒェン様」
多少青ざめた王女殿下が、確かめるかのようにこちらの目を覗き込んでくる。
「いいえ。まったくもって、存じ上げませんでしたよ」
首を横に振って見せたかったが、思いのほか頭を押さえるメイドの力が強く、言葉でだけ否定をする。
「信じられません!賢者様からお聞きになっていらしたのね!?」
ガタリとソファを動かすほどに、勢いよく立ち上がる王女殿下。
「いいえ、それも違いますよ。あのクソ賢者は、王国に帰ったら俺は忙しくなるだろう、としか言ってませんでしたよ」
言葉を一度切る。
「賢者と弟子一同はアポイントとかの約束事をすっぽかす傾向にあるから、それを防ぐためにすべてのことを俺を経由させるようにしてたんですよ。それにもかかわらず、王女殿下から接触があったを隠していやがりましたからね」
首元に冷たく硬い何かを押し当てられたまま、軽く肩をすくめてみせる。
押さえられた頭は相変わらず動かないし、首元に押し当てられたものすら微動だにしやしない。
俺を押さえ込んでいるメイドは、よっぽど強い護衛なんだろう。
「ご安心ください、王女殿下あのクソ賢者が内密にすると言ったことは、何が起こっても決してクソ賢者から広まることはあり得ません。弟子たちにすら、決して漏らしません」
「では、カールヒェン様はどうやって知ったのですか?」
ローテーブルに両手を叩きつけ、王女殿下が睨みつけてくる。
さすが、当代一の姫騎士とも称される王女殿下。
圧が半端ない。
飲まれそうになる気持ちを好奇心で立て直す。
「種明かしをする前に、俺の質問に答えちゃくれませんかね。王女殿下はエルフの血を引いてらっしゃいますよね?」
口角を上げて余裕があるように見せながら、王女殿下の碧眼を覗き込み返す。
王女殿下のきらびやかな瞳に自らの姿が写し出された。
メイドのエルフは俺の黒髪を巻き込むようにして頭を押さえ込んでいる。
下手に動いたらハゲ一直線だったな。
刃先しか見えていないが、首元に押し当てられているのはバターナイフのようだ。
そんな状態でも黒眼を爛々とさせて問うている自分がすごいと思う。
「……はい」
「姫様!」
「いいのよ。……カールヒェン様、私はエルフの血を半分だけ引いています。これで、どうしてお知りになったのか、答えてくれますね?」
押さえ込んできている武闘派メイドの制止を退け、王女殿下が答えてくれた。
次は、こちらが種明かしする番だ。
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