第4話 押しかけ弟子、王女の秘密に気づく

「王女殿下。一点、重要なことをお伺いさせてください。興される国は、いずれ王国に併呑される、との認識でよろしいでしょうか」


 俺の問いかけに、王女は真剣な表情で首を横に振る。


「いいえ。新たに興す国は、王国に併呑されることはありません。もし、王国にそのような動きがあった場合、私は全力を尽くし、抗う所存ですわ」


 王女殿下の気迫に飲まれた。

 まだ影も形もない、ふんわりとした構想だけの国。

 その国にかける王女殿下の熱意を感じ、自らの好奇心がうずくのを感じた。


「なるほど、承知いたしました。不肖、賢者の押しかけ弟子も微力ながら一緒に抗わせていただきます」


 座ったままではあるが、深々と頭を下げる。

 この王女殿下に付き合っていれば、俺の好奇心が鎮まることはないだろう。

 頭を上げたとき、控えていたメイドがお茶の準備を始めたことを視界の端でとらえた。

 思った以上に、話に集中していたようだ。

 厳格な教育の賜物と思われる動作にて、メイドが王女殿下と俺のカップを変えていく。

 カップを変えるため、前かがみになったメイドの髪が垂れ、隠れていた耳が露わになる。

 その笹のように長く尖った耳に、眼を奪われる。

 長く、尖った、耳?

 自分の耳を触りそうになる手を、意思の力で押しとどめる。

 改めて思い浮かべた自分の耳の形は、丸い。

 自分の父、母、兄たちも、耳は丸い。

 人の耳は丸いのだ。

 では、長く尖った耳を持つメイドの彼女は人ではないのか。

 ぶしつけにならないよう注意して、メイドの首元を観察する。

 首元を隠すような襟でよく見えないが、黒い皮でできた首輪をつけている。

 首輪をつけたメイド。

 彼女はエルフ、亜人だ。


「そういうことか……」


 目の前の情報と、以前から知っていた情報がつながる。

 前々国王、前国王が親征により得た世界樹とその周辺には、エルフたちが住んでいた。

 人の争いには決して加わらず、世界樹とその周辺を守り、ひっそりと生きていたエルフ。

 隣の帝国がドワーフを支配し、国力を増したことを受け、前々国王はエルフを支配することを決意する。

 そして、国内情勢を整え、エルフを急襲した。

 前々国王は道半ばで病に倒れたが、前国王がその考えを継ぎ、世界樹とその周辺に住むエルフを支配することに成功した。

 前国王は、エルフの支配を継続させるため、エルフの姫を人質にしたという。

 その人質になったエルフの姫は、現国王の慰み者となっていたが、第四王女ができたことにより、側室となったのだろう。

 だからこそ、支配しているエルフの血を引く第四王女が国王とならないようにするため、第四王女の母である側室に、国家反逆罪を適用。

 王城の北塔最上階に幽閉し、第四王女の王位継承権を最下位にしたのだ。


「王女殿下。あなたは、エルフの血を引く者、ですね?」

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