第3話 押しかけ弟子、王女の構想を聞く

 高笑いする賢者の顔が浮かんだことで、頭に上ってしまった血を下げるためにも、カップに口をつけ、紅茶を飲む。

 落ち着くまで待っていただいた王女殿下に頭を下げる。


「失礼いたしました。早速ではございますが、王女殿下は、興される国をどのような国になさりたいのですか?」


「私は、皆が幸せに、生きることを全うすることができる国にしたいと考えております」


 静かに、それでいて力強さを感じる口調で、王女殿下が答えてくれる。

 きちんと考えている王女かもしれない。

 そう思った俺は、軽く身を乗り出す。


「国の理念は『皆が幸せで、生きることを全うできる』ということですね。では、その理念を実現した場合、国はどのようになっていると想像されていますか?」


 かなり抽象的ではあるが、最初に掲げる理念としては悪くないと思う。

 その理念を実現したときの国を、王女殿下がどう想像しているか。


「そうですね。家族がいつでも自由に会い、話すことができる。そして、同じ食卓で食事を取ることができる。そんな家庭ばかりの国、でしょうか」


「それは国民の家庭状況について、ですよね。国としてどうなっていると想像しているか、を教えていただけないでしょうか?」


 俺の問いかけに、王女殿下はきょとんとした表情で、首をかしげている。

 まるで何を聞かれているかわからない、とでも言うかのように。


「たとえば、国民や国内の街の数、領土の広さ、王国をはじめとする諸国との交流など、国家としての形については、どのようになっていればよいと想像されていますか?」


「ああ、そういうことですね。そちらについては、カールヒェン様の知見をお借りしようと考えておりました」


 具体的な話を出したところ、理解できた王女殿下は、にっこりと笑みを浮かべる。

 ただし、その回答は何も考えていない、と同義の回答だったが。


「……それでは、国を興される場所をどちらになりますか?」


「世界樹とその周辺です。の親征以降、手付かずであるとのことですから」


「世界樹とその周辺、ですか。親征以降、開発の手が入ったとの情報は、賢者のところにも届いておりませんね」


 賢者の元には、さまざまな情報が集まる。

 賢者の弟子の中には、各国の王侯貴族の子弟がいて、その所属国からの助力を求められる。

 そのとき、俺も雑用係として付いていって情報を得ることもあれば、助力にいった兄弟弟子からの話を聞くことで情報を得ることもある。

 どこの国からも、世界樹とその周辺は手付かずである、との情報しか出てきてない。

 その世界樹とその周辺を領土にできるということは、周辺諸国に与える影響も大きい。


「王女殿下。一点、重要なことをお伺いさせてください。興される国は、いずれ王国に併呑される、との認識でよろしいでしょうか」

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