第3話 作戦会議と7号の説得

「アルベルトさーん」

「あ……?」


 クソガキの声で俺は目が覚めた。寝ぼけ眼のまま辺りを見てみると物騒な女とガキは消えていた。どうやら俺の作戦が完全に成功したらしい。ざまぁみろって感じだ。何も仕返しをできていない気がするが無視。

 どっと疲労感が襲ってきた。4号を破壊できるような超次元級の破壊兵器を振り回すような女を前にして精神崩壊しなかった自分を褒めてやりてえ。そんな奴をやり過ごしたんだから疲れが来るのは当然だ。

 元々疲れを取るために散歩してたってのにこれじゃ逆効果じゃねえか。なんだってんだちくしょう。


「目についた女を襲おうとするからでしょ」


 1号が俺の不手際を指摘しやがる。あんなにでかいハズレを引くだなんて思うわけねえだろ。

 4号の身体が何でできてんのか知らねえが治るんだろうか。ユラじゃ無理そうだな、こいつは人間治療専門だ。

 やれっかなあ、とか思いながらユラを見る。でこに怒りマークがついていやがる。


「アールーベールートーさーん!」


 爆発0.5秒前だったので耳を塞いでおく。


「なんで僕からいきなり離れて走り出したんですかしかもすぐに追いかけたってのにこんなところで気絶してるし僕がいないとアルベルトさんはまともに立ってることもできないんですかだからあれだけ僕のところから離れないでって何度も言ってるのにアルベルトさんときたら何回も何回も──!!」


 ブチギレるユラのお小言を聞き流しながら俺は考えていた。あのクソアマを何とかしてやりてえ。身体付きはいいから獲物としては問題なし。

 だがあの守護魔法付きの武具が厄介過ぎる。まともな物理戦闘を仕掛けようとしたのが失敗だったな。4号や花で精神汚染の方向にしておけば良かったのかもしれねえ。鎧で武装はしてたが兜はつけてなかったあたり、嗅覚や口経由なら毒物を叩き込むこともできるはずだ。


 次の問題は俺の気絶要因となったショタ魔術師だ。多分、あいつは逆立ちして両腕で成層圏までジャンプしても勝てねえ。俺が持ってる召喚物を片っ端から、それこそ6号まで引っ張り出しても多分無理だ。6号とタイマンになったら勝てるかもしれねえが、1対1になったらあのショタは逃げ出すだろうし、俺が付随してたら俺を狙ってくる。そして俺は狙われたら1億パーセント死ぬ。小数点以下100億桁ぐらいの確率で相手が俺の召喚物の豊富さに対応が遅れに遅れまくったら勝てるが、ちょっと想像できねえ。


 となるとやるべきことは1つ。あの女が1人になるのを待って襲う。これだ。俺史上最悪の結末としてはあの女に何かあった瞬間にあのショタ魔術師がすっとんできて俺がこんがりと丸焼きにされる、というのがあるが……。

 俺はまだキレてるユラを見た。


「聞いてるんですかアルベルトさん!」

「お前、俺が死にかけてたら一瞬で治せるのか?」

「え……そうですけど……」


 確認は取れた。これで残った懸念は俺が一瞬でも生きていられるかどうかだ。

 あ、ちげえ。この作戦は俺がユラを連れて行くってことだが新しく2つの問題が生じることに俺は気がついた。

 1つ、ユラが同意しない。2つ、なんとかユラを説得したとしてもユラが殺されたら駄目。


 うーーーーーーーーーーーーーーーん。


 こういうときは作戦会議に限る。


「お前らどうしたらいいと思う?」


 ぽん、と俺の周りに召喚物の擬態たちが現れた。指先サイズの触手の1号に、同じサイズの獣の顎だけの2号。軍服の胸元には一輪の花。黒い霧に小さなドラゴン。小さな球体の4号は穴が空いたせいかばってんマークがついている。


「私、マスターを守る自信がないわ」「わっちもじゃ。あの鎧は叩いてもこっちが痛そうじゃ」「花粉は試してもいいですけどぉ、蔦は無理そうですねぇ」「吾輩は既に痛いのだ。催眠はやってみないと分からないのだ」「守護魔法とやらがどんなものか分からんので食えるかも分からん」「強そうだし、やめとこ?」


 全員揃って消極的だった。特に何度も触手が弾かれた1号は落ち込んでる始末。


「そんな落ち込むなって。そういうときだってある」


 俺は頭の上に乗っかっていた1号を指でつまんで指先で撫でてやった。「そうね……」と1号の声はへこんだまま。心に傷ができちまったらしい。高次元生命体の心とかよくわかんねえが。


「アルベルトさん、また何か悪さしようとして失敗したんですね! しかもまだやろうとしてるんですね!」


 ユラが怒り出す。こいつのことを忘れてた。まずはこいつの説得からしねえと。


「うるせえなあ。そんな簡単に生き方が変えられるわけねえだろ。そもそも俺についてくるんなら俺に従えよな」

「アルベルトさんのやってること放置してたらアルベルトさんの命がいくつあっても足りないじゃないですか!」

「それを何とかするためにお前がいるんだろーが」


 むむむ、と唸るユラ。ちょっとおだてる作戦でいってみるか。


「いいかユラ。俺ぁお前が言うとおりどうしようもねえ男なんだよ。お前がいなきゃダメなんだよ。このまま俺がどっかにすっ飛んでいって勝手に死んじまってもいいのか?」

「それは……嫌ですけど……」

「だろ。俺はダメ人間だからガス抜きがどーしても必要なわけよ。そんなダメ人間の俺のダメなところをお前が埋めてくれるんだろ? そういうところで俺はお前を必要としてるってわけよ」


 さらに唸るユラ。もう1押しだな。


「俺のわがままに付き合ってくれるようなやつはお前ぐらいしかいねえんだよ。お前が俺と一緒に悪さしてくんねえと俺は困っちまうんだ。な、頼むよ」

「そ、そんなに僕が必要なんですか……?」

「ああお前がいなきゃ俺ぁダメだ。それはお前が1番よく分かってることだろ?」


 ユラが帽子をぎゅっと深く被る。照れてるサインだ。いけるぞ!


「俺にはお前が必要なんだよ、ユラ」

「…………しょ、しょうがないですね。たまには付き合ってあげますよ」


 よし、勝った。

 実際は馬鹿みてえにお人好しなこいつが騙されねえように俺が必要な気がするがな。悪い女に引っかかりまくるだろこいつ。

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