第205話 最強の男
ツパーーーンッ!ツパーーーンッ!
睡蓮屋の隣にある小間物屋。その離れから、何やら小気味良い音が響き渡っている。
その音の発生源は、二人の変態武将。
一人は壁から尻を生やした男、河村久五郎。
もう一人は、その尻をスパンキングする全裸鎖。
そう。柴田権六勝家、その人である―――――。
それでは、何故このような仕儀に至ったのか。
振り返って説明しよう。
えろ女の秘所、『壁腰部屋』の壁を破壊して、河村久五郎の娘である紫(ゆかり)に怒られ、慰謝料と迷惑料を割り増しで絞り取られた希美と久五郎であったが、希美は壁を壊した事は反省したものの、その元凶となった久五郎を懲らしめずにはおれなかった。
自分と同じ目に合わせてやる。
ハンムラビ法典上等だ。
紫の説教が終わるや、希美はすくりと立ち上がり、久五郎の首根っこをひっ掴む。
「ユカ、隣の部屋の壁腰壁は、こちらと繋がっていないから無事よな?」
「はいな。使われますか?」
「ああ」
紫は、父親にちらりと視線を向けると、立ち上がって招いた。
「では、こちらへ」
希美は久五郎を引き摺り、紫の先導に着いて隣の部屋に入る。
「お師匠様?わしをどうなさるおつもりで?!」
久五郎の問いかけを無視し、希美は久五郎を、頭から壁の穴に突っ込んだ。
「久五郎、私と同じ目に合わせてやるからな!」
「な、なんと!?わしの尻にえろ大明神様の御神体を!!?」
「それだと、私にハンムラビ法典!!」
なんのこっちゃである。
しかし、希美は危なく久五郎にBLされようとしていたのだ。
よりによって、河村久五郎に。
誰も萌えぬ。
紫は、父親の尻を眺めて、希美に尋ねた。
「お仕置き、なさるので御座いましょ?お腰のモ・ノ・をお使いにならないならば、何かムチや『ちょうど良い形の着衣人形』をご用意致しましょうか?」
「『ちょうど良い形の着衣人形』を久五郎の尻にどう使おうというのだ、紫さんや……。いや、それはいい。時間も勿体ないし。よし、ふんどしでしばき回してくれる!」
言うや、希美は久五郎のふんどしを使おうと袴に手をかけ、やっぱり引っ込めた。
「なんか、私が久五郎を脱がすという行為が、BL臭くてやだな……。よし、紫、命令だ!久五郎の袴とふんどしを脱がしてくれ!」
紫は、最大限に嫌な顔をした。
「えろ様、父の下半身露出の命めいを娘の私にさせますか……」
「娘なら、平気だろ?紫は昔、久五郎の一部だったんだ。自分の体を触るのといっしょさ!」
「やめてくださいましな……」
「お師匠様!わしは是非お師匠様に!」
「却下」
仕方なく紫は久五郎の袴を取り、ふんどしに手をかけた。
「えろ様……」
「どうした?」
「何やら湿っておりまする……」
「いやあ。お恥ずかしいですぞ///」
紫は久五郎の袴で、ゴシゴシと手を拭っている。
紫の兄弟姉妹かもしれない。
希美は、久五郎のふんどしを使用しない事を即決した。
「じゃあ、他に何か代用できるものは……」
「あ!」
「どうした、紫?」
紫は、久五郎の袴をごそごそと探ると、中から何やら白くて長い布を引っ張り出した。
「みつけましたわあ。使徒用の生ふんどし頭巾。少し前に父上が、えろ様の入浴中にこっそり脱衣場で入れ換えていたのを見ましたの。父は、予備のふんどしを、いつも袴に隠しておりまする故に」
「……ほう?」
久五郎の余罪が増えた!
希美は、紫から盗まれたふんどしを受け取ると、いい感じの長さに折り畳み、片手に持ち替えた。
ドカッと久五郎の尻を足蹴にして、希美は語りかけた。
「覚悟はよいな?久五郎」
「や、優しくして下され……」
希美は、アンダースローの構えをとる。
「出来るかよっ。色魔天誅ーー!!」
ッパアアアーーーン!!
「アヒイーーッ!!」
そして、話は冒頭へと戻る。
ツパーーーンッ!「ヒインッ」
ツパーーーンッ!「ヒアアッ」
ツパーーーンッ!「ンホオッ」
壁から生えたおっさんの下半身。
翻るふんどし。
ふんどしを操る全裸鎖男。
見守る美女。
とんでもない光景が広がっている。
「えろ様、私、何の地獄絵図を見せられてますの……?」
「久五郎!懲りたかっ」
「ハアッハアッ。お師匠様に尻を晒し、お師匠様のふんどしで尻を苛まれる悦びっ。わしは、新たなえろの扉を開いたあっ!!」
「なんで、そっち方面に覚醒してんだ!糞ぅっ、さらにギアを上げてくしかない!秘技っ、『百花繚乱ふんどし乱舞』!!!」
ツパパパパパパパパパパ……!!!
「な、なんて事なのかしらあっ。ふんどしがあまりの速さに残像を残して……!その様は、まるで咲き乱れる白き花の園!!」
紫が名解説ぶりを発揮する。
そして、色魔の罪で刑を執行された久五郎は、
無事、昇天した―――――。
ピクピクと幸せを噛みしめる男尻おしりを見下ろしながら、希美は呟いた。
「ダメだ、こいつ。私が何やっても、ご褒美になってしまう。どうすりゃいいんだ?」
紫が答えを出す。
「破門、でいいのではないかしら?」
「おお、なるほど!」
「でも、破門したら、えろ教徒達が暴走を始めそうねえ。なんだかんだで、父がえろ教徒達の管理を一手に引き受けているから」
「結局、この男が最強なのか……」
さしもの肉体チートも、役に立たない。
河村久五郎は、恐ろしいど変態である。
希美は久五郎を部屋に残し、小物屋のお万に壁の破壊を謝罪してから、紫を連れて屋敷に戻った。
しかし、屋敷に着くや否や、近習に確保され、春日山城へと連行される。
城内で待ち構えていた輝虎が、何事かと戸惑う希美に告げた。
「明日、伊達家の彦姫一行がこちらに来る。来るには来るのじゃが……、問題が起きた」
「一体どうしたんだ?」
「伊達の当主殿がかなりご立腹じゃ。この婚姻は無効にする、と息巻いておる」
「はあ!?何、今さら言ってんの!」
「それを受けて、芦名止々斎が来る」
「は?」
「中立のここで、今後の話し合いをしたいのだそうな」
希美と輝虎は、視線を交えて、互いに嘆息した。
「わかった。なんとか仲裁させねばな」
東北に、動乱の嵐が芽吹こうとしていた。
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