第192話 クゲジョ限定説法ライブ1563 後編

「『えろ大明神説法ライブ1563』、いよいよ最後の演目となり申す!多少見苦しい姿をお見せ致しまするが、『相撲』と同じく『神事』で御座いますれば、ご容赦下さいませ!!」






希美はそう言って垣根の向こうに消える。


すると、どこからともなく黒装束の忍者がやってきて、陣幕を張り始めた。


そのうち、陣幕の中から希美の声が聞こえた。


どうやら準備が整ったようだ。




「それでは、『えろ大明神柴田権六』のライブといえば、これ!ただし、今回は女子限定という事で、特別初披露の舞曲(ダンスナンバー)で御座る!!この舞は、全ての女子のための舞である!!」




いつもならば、ここでマイコー若村の『スリラー』をぶっこむのが定番である。


しかし、肉食女子受けならば、希美が大好きなあの女性シンガーのあの曲で、力強くセクシーに決めたい。


そんな希美のこだわりにより、男性シンガーの『スリラー』ではなく、女性シンガーに変更したのだ。




「美四世の『クレイジーインラブ』!いくぞ、忍者ダンサーどもっっ!!」


「「「「「お、お、お、お、おお、おお応!!!お、お、お、お、おお、おお応!!!」」」」」




陣幕が落ちて、全裸鎖に猫耳の希美と、全裸鎖に黒頭巾の忍者達(甲賀)が姿を現す。




「「「「「キヤアアアアアアア!!!!」」」」」




公家女子達の黄色い悲鳴が寺内にこだまする。


ムキムキの肉体に椿油を薄く塗って艶を出した希美と忍者ダンサー達が、希美の熱唱に合わせて惜しげもなくその肌を晒している。


そして、激しく踊る。踊る。


扇情的に尻を激しく前後に振り、時に突き出し、その動きは挑発的で、自信溢れる力強いエロスを感じさせる。




この時代の女子といえば、女だからと侮られ、恋愛結婚も許されず、家の道具として嫁入りさせられがちだ。


その中でも強かに生きる戦国女子達に、希美は、自信とパワーに満ちた女子像をダンスで届けたかったのである。


どんな環境でも、自分に自信を持って魅力的に、輝け、と。






ただし、そのダンスを熱く踊るのが、ムキムキの男だというのは、気にしてはいけない。






そのホットなダンスは、存分に公家女子達に伝わったようだ。


簾が蠢いている。


端近に寄るだけではしたないとされる公家女子達が、出来るだけかぶりつきで見ようと簾際にまで詰めかけ、熱いリズムに思わず体が揺さぶられているのだ。


そして、希美と忍者ダンサー達によるパッションのダンスが幕を閉じた時、公家女子達の意識は変化していた。






彼女達は、思い知った。




引き締まりながらも、筋肉(にく)の盛り上がった浅黒い肉体が漆器の如く照り光る様の美しさと迫力を。




彼女達は、思い知った。




多くの公達のあのプヨプヨとした肉体には、もう戻れない、と。




彼女達は、思い知った。




逞しき肉体、引き締まった尻こそ、自分達の求める至高の『えろ』である、と!!






その日の『えろ大明神説法ライブ1563』は、公家女子達の熱狂と興奮に包まれて、幕を閉じた。


そこからである。


公家女子の嗜好が変化し、それは公家女子ネットワークを通じて次の日には宮中の女官全てに、五日ほど経つとほとんどの公家女子に広まった。


そしてそれは、公達の意識をも変えた。




昔ながらのぽっちゃり系男子がもてなくなったのだ。


故に、彼らは求めた。肉体改善を。その方法を。




結果、叙任を待つために未だに京に残っていた信長の元に、公達代表として再度、近衛前久がやって来たのである。






「というわけで、武士のような逞しき体になるにはどうしたらよいか、教えてくれぬかの?」




そう言ってきた前久に、信長は(何言ってるんだ?)と唖然とし、希美はため息を吐いた。


だが、そもそもよく話を聞けば、前久がこんな事を言い出した原因は、希美のダンスパフォーマンスである。


全てを理解した信長が希美の脇腹をパンチして、『お前が解決して差し上げろ』と伝えてきたので、希美は前久に対応する事にした。


「日頃から鍛練を積んでいるからこそ、武士の肉体はこ・う・なので御座る。ぽっちゃりな公家の皆様の場合、すぐに結果は出ませぬし、食事改善や運動、トレーニングなど大変ですぞ?」


希美の言葉に、前久はシリアスな表情で遠くを見た。




「構わぬでおじゃる。時代は変わった。時代が求めるは、『武士』なのじゃ……」




なんだか、NHKの歴史ドキュメンタリー番組かなんかにありがちな名言ぽい事を言っているが、意訳すると、『女にもてるマッチョになりたいお☆』という事だ。




だが、現代で散々ダイエットに挫折してきた希美は、『継続力』こそが肉体改造の秘訣であると知っていた。


『継続』できぬから、挫折するのだ。希美は、釘を刺しておいた。


「『武士』ボディは一日にして成らず。効果がわからぬでも続けなければなりませぬ。それに某は国に帰り申すから、某がおらぬでも公家の皆様に教えられるような者達に、某が知る限りの事をお教えしましょう」


「か、かたじけない!」




希美は、ちろりと前久を見た。


「で、かかる費用と講師料はいかほどいただけましょうや?」


信長が、スパーンッと希美の頭を叩く。


前久も、困った顔をした。


「多少は出せぬ事もないでおじゃるが、正直、こちらが織田殿に朝廷のために金を出して欲しいくらいでの。内裏の修繕もしとうてのう。柴田殿も、朝廷のためにいかばかりか用立ててくれぬかのう?」


金を取ろうとする希美に逆に献金を頼むとは、流石、この時代きっての『高楊枝貧乏』朝廷アンド公家。


息をするように出資を募ってくる。


武士の台頭で、朝廷に税収がまともに入ってこないのだ。つまり稼ぎがあまり無いのである。


希美は、金にならぬ仕事に、さらに深いため息を吐いた。




前久は、フォローするように話を変えた。


「そういえば、『やんごとなきお方』が『馬耳』を大変お喜びでな、柴田殿に会えぬのを残念がっておられたぞ」


「ああ、そういえば、『あのお方』は、馬がお好きでしたね。この時代に競馬があれば、きっと『天皇賞』なんかは欠かさず天覧を……あ!」


信長と前久が不思議そうに、何か思いついた風の希美に目を向けた。


希美は、呟いた。


「これをやれば、朝廷の収入を増やせるかも……?」


「なんじゃと!?それはどういう!!」


前久が食いつく。


希美は、告げた。




「朝廷主催の神事として、『競馬』を主催するので御座る」




聞き慣れぬ言葉に困惑する前久と、また何か大事になりそうだと顔をひきつらせる信長が希美を見た。


「け、けいば……?」


「そう。『競馬』でガッポリ儲け、それを内裏の修繕や諸々の費用に当てるので御座る!馬関係なら、馬好きな『やんごとなきなきあのお方』もノリノリで決裁してくれるはず……」


「その話、詳しくでおじゃる!!」








さて、その後の流れをかいつまんで説明しておこう。


希美は、合コンで知り合い友人になったビルダーの話を思い返しながら、公達の肉体改造の指導にあたった。


まずは、散歩など軽い有酸素運動と食事改善から。


貴族の広大な屋敷に大豆畑や鶏小屋を作り、良質なたんぱく質やビタミンを食事に取り入れさせた。


そうして、ある程度筋肉がつき絞れてきたら、テレビ番組『エブリバディ筋肉運動』で見たトレーニングを付加していく。


筋肉をいじめた次の日は、筋肉を休ませる。


それを繰り返しながら少しずつ負荷を増やす。




信長が無事に叙任され、公達の肉体が完成する前に京を離れた希美であったが、後日京に入った際には、ガチムチの公達が溢れる京の町に驚愕する事になる。






また、『競馬』についても『やんごとなきなきお方』と同じく馬好きな主上の許可が降り、開催が決定された。


といっても、すぐすぐの話ではない。


まずはパドックや観客席がある競馬場を建設し、馬の育成所を作るなど多くの準備が必要である。


柴田勝家による『競馬』の発案で主上の信頼を得ていた事もあるが、『競馬』に関わる施設などは織田が資金を出す代わりに、信長は、後々『競馬』を差配できる役職にスピード出世を果たす事になる。


ちなみに、ジョッキーは各大名から一人選出され、優勝者には『競馬頭(きそうまのかみ)』という一年間限定の役職に叙任される栄誉を賜る事ができる。


そのジョッキーが所属する大名も、主上から御言葉を賜る事ができるとあって、大名やその家臣達は熱くなり、彼らにも大いに馬券が売れた。




さらに、柴田屋も朝廷との繋がりができ、『競馬』に関わる商いの鑑札を得た。


当然、『競馬場』に投資した分を取り戻すべく、かなりの荒稼ぎをしたようである。




公家達は、それぞれ『競馬』に関わる仕事をして、『競馬』責任者である信長を通して、朝廷から『競馬』手当てをもらう。


わざわざ田舎にカルタ作りや蹴鞠講師の出稼ぎに行かずとも、京でバイトができるので、公家達は喜んだ。




何にせよ、朝廷、信長、希美、大名達、皆、WinWinである。






お分かりだろうか。


【今日こんにちの独特の京文化を形成した歴史の分岐点が、『織田軍による獣コスパレードである』】とは、こういう事だ。




現代に残る京文化の一つ、『獣耳』は、伝統的な髪飾りとして、また京文化圏の結納品としても、公家から伝わったとされる舞妓のお座敷遊び『隠し獣耳』としても見られるが、その原点は明らかに『織田軍による獣コスパレード』だろう。




また、京都が『ビルダー発祥の町』として、今でもボディビルが盛んなのも、この時に織田軍が派手に動いた事で、『朝柴物語』の柴田勝家が京にいると知った女官達が柴田勝家に会いたいと騒ぎ、『えろ大明神説法会』が実現した事に起因する。


この『説法会』で公家女子達がマッチョメンに目覚めたのは、周知の事実である。




さらに京都で伝統的に『競馬』が行われ始めたのは、この時に京都に滞在していた柴田勝家が朝廷のためにと発案した事による。






ついでにいえば、この時の『えろ大明神説法会』は、日本の美術史にも大きな影響を与えている。


琳派、円山・四条派など狩野永徳以降の日本画家達は、狩野永徳のBL絵に影響を受けている者も多い。


さらにそれは、海外の有名画家達にまで影響を及ぼしており、『BL』の汚染はそれとはっきりわからぬようにキリスト教の目を掻い潜り、世界的に広がってしまっている。




さて、日本の美術史に戻るが、特に俵屋宗達は狩野永徳のBL絵に影響を受けた絵師の一人で、BL絵を描いた作品も多く残っている。


彼の代表としては、国宝『風神雷神図』があるが、風神と雷神が絡んだBL絵バージョンも残っており、はっきり言って俵屋宗達の気がしれない。

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