第151話 新たな仲間と新たなあだ名

箕作城は、希美の危ない知識チートにより、敵味方ほとんど損害を出さずに陥落した。


死んだ者といえば、初めに攻め上がった時の犠牲者くらいだろうか。




(犠牲者が少ないのは狙い通りだけど、あの作戦は使いどころが難しいんだよなあ。こっちの兵も、少し煙を吸い込んでしまったのがいたみたいだし。うーん、この知識チートはダメだな!)


この時代、あの草はわりとどこにでも自生しているし、繊維や漢方薬、神事用として栽培もされているかなり身近な植物だ。


だからこの使い方がもし広まった場合、かなり怖い事になりそうである。


両軍が怪しい煙に包まれた戦など、洒落にならない。




(私が医者なら手術用に成分を抽出して医療チートするんだけど、所詮はそこら辺のおばちゃんだからなあ)


戦の犠牲者は違う方法で減らさないとなあ、そんな事を考えながら、和田山城に向かった希美と織田軍は、和田山城の兵達が逃げ出したと聞き、唖然とした。






「いやあ、向こうに箕作城陥落の早馬がやって来ましてな。一度捕らえたので御座る。だが、『柴田権六が神力を使って城内の人間を人事不能にしたため、皆抵抗出来ずに一夜で陥落した』等という知らせだったので、面白そうだと思って解き放ってやり申した」


和田山城攻めを担当する滝川一益が、そう言いながら笑っている。


「その早馬が和田山へ入ってすぐ、城内が騒がしくなった様子で、続々と兵共が逃げ出しましてなあ」


後は赤子の手をひねるように城を落とせましたわい、と稲葉良通が苦笑した。




「つまり、こちらも一日で陥落か」


希美は呟く。


そんな希美に丹羽長秀が囁いた。


「ふふ、それは残念。箕作城ではなかなか柴田殿を赤白に塗まみれさせる好機がありませなんだので、和田山を頼みに参り申したのに……」


「よ、よかったー!!和田山陥落、最高に御座るぜえ!!」


「仕方無し。観音寺城攻めまで、お楽しみはお預けですなあ」


「観音寺城も、敵味方犠牲者無しで行くぞおっ、皆の衆!!」


(((((そんな無茶な……)))))


気炎を上げる希美を柴田勢が呆れて見ている。


丹羽長秀は、希美の肩にぬるりと手を置いた。


「無理ですよ。あの草はもう無いのでしょう?ああ、あの草は本当に良いものですなあ。あれを使えば皆を×××にしたり、皆で柴田殿の××を××××して」


「BIGな麻、ダメ!絶対!!我が柴田軍は、BIGな麻を始めとしたあらゆる違法薬物を根絶する事をここに誓います!」


核爆弾にしろ、麻爆弾にしろ、決して使ったらいけない兵器はあるのだ。






希美が、(『違法薬物』を取り締まるためには、まず法を作って『違法薬物』を作らなくては。まずは医師を集めて研究機関を作るか……)とややこしい事を考えていると、すぐ傍で三段笑いがかまされた。




「くくくくく……ははははは……ふはーっはっはっはっ!!」




三段笑いのカリスマ、信長さんである。


「まさか、あの六角がこのような脆さを見せるとはのう。さて、次は観音寺城じゃ。自称六角当主はどう出るかのう。どう思う、権六う!」


「ええっ、私!?逃げ出したいけど、逃げ出せないのでは?三好と待ち合わせしてるなら、すっぽかしちゃダメでしょ」


「なるほど、一理あるの。では、三好が来る前に観音寺城に参らねばのう」


信長がくつくつと可笑しそうに笑って立ち上がった。


上機嫌である。


(よっし。今日の殿はニッコニコだし、バラ鞭でしばかれるのは無いな)


希美が心の中でガッツポーズをしていると……。




ビシビシビシィッ!!


「なんで!?」


「最高に気分が良いので、その方の間抜け面を拝みたくなった」


「真性のどえす!!」


どちらにしろ、どえすは鞭を振るうもの。


希美は、どえすについて一つ賢くなった。






その時、信長の近習が「失礼致す!」と飛び込んできた。


「殿!六角家家臣、進藤山城守殿の軍勢一千が和田山城の前に!」


「なんじゃと!?」


信長が目を剥く。


「一千で和田山城奪還を?無謀な……。六角の進藤といえば、それと知られた将ではないか」


稲葉良通が怪訝そうに一人ごちた。


「いや」と滝川一益が反応した。


「某の知り得た情報では、進藤山城守は少し前に六角義定と袂を分かち、領地に戻ったと聞き及んでおります」


「では、何故ここに?」


稲葉良通が首を傾げる。


そこへ、別の近習が現れた。


「進藤山城守の先触れが参り申した。殿にお会いしたいと」


信長は、即断した。


「うむ。会おう!」


和田山城は、敵将?進藤賢盛を迎える準備で慌ただしくなったのである。






「初めてお目にかかり申す。進藤山城守賢盛で御座る」


「織田上総介信長じゃ」


初対面同士の武将二人が、内心ドッキドキで互いに名乗り合う。


現代だと、ビジネスなら名刺交換でもする所だ。


合コンだと呼び名を決める所か。(以下、希美の妄想)






『山城守かあー。じゃあ、山ちゃんって呼んでいい?』


『山ちゃんとか、やだー!芸人の人みたいだしぃ』


『じゃあ、山っち!』


『いーよ!山っち、ね。じゃあ、上総介君は、ズーサーね!』


『ちょww、なんでそこの部分拾ったのwww』


『えー、ダメ?』


『いーぜ!俺、今日からズーサーになるわ。LINEの名前もズーサーに変えちゃうわ』


『うけるー!じゃあ、LINE交換しよ?私もLINEの名前、山っちにするし』


『マジで?もう交換しちゃう?ちょっと待って、準備するからー』


『あ、私も準備しよ……』






(ズーサー!!ダメだ。笑いをこらえねば!『笑っちゃいけない和田山城』!!)


希美がなんとか気持ちを落ち着けようと、信長から視線を外し、隣に座っている滝川一益を見た。


一益も、希美に見られているのに気付き、希美の顔を見た。




希美の顔が、笑いをこらえているせいで、非常に面白い面になっている。




一益は、「ぐっ……」と吹き出しかけ、慌てて両手で口を押さえた。


「てめえ、権六この野郎!こんな場でそんな面白顔しやがって!何の罠だ!(小声)」


「違う。笑いがこらえられなくて吹き出しそうなんだ。助けて、彦右衛門……(小声)」


「知るか!俺が笑いをこらえられないの、知ってて言ってんのか!?(小声)」


「ちっ、使えぬ男よ……。お前にも、私の笑いの元をお裾分けしてやる(小声)」


「おい……、止めろ……(震え小声)」


「ねえ、殿の名前、親しみを込めて、『ズーサー』って呼んでみない?(小声)」


「ぐばあっっっ!!!」


「ぶごおっっっ!!!」




一益が吹き出し、つられて希美も決壊した。




信長がおもむろに立ち上がり、悶絶している希美達に歩み寄ると、魔王と化した。


その時振るわれた信長の鞭は、音を置き去りにした、と『信長公記』に記されている。






希美と一益は悶絶したまま担ぎ出され、しばらく庭に放置された。


『進藤山城守賢盛が、織田軍に降った』


その知らせを聞いたのは、ようやく笑いが治まったその日の夜の事だった。

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