第126話 えろプロデューサー河村久五郎の手腕
今、希美の目の前には、合戦風景が広がっている。
ただ、両軍とも兵士達の姿が普通ではない。
きちんとした鎧兜を身に付けている者は、少ない。足軽風の中途半端な具足をつけているものも。
尾山御坊側に陣取っている方が、どっちかといえばちゃんとした身なりの者が多いが、どちらの軍も、前面に展開する大多数の兵は、粗末な槍や鍬を持っただけの、たすき掛けした平服の民や僧だ。
彼らは希美達の姿に気が付くと、一様にぽかんと口を開け、その後の反応は二つに分かれた。
「えろえろ南無阿弥陀仏」と祈る者と、敵意を向ける者とにである。
尾山御坊側の軍では、後方から「あれは悪魔じゃ!」「仏敵じゃ!」としきりに激を飛ばし、兵達のヘイトを希美に向けさせている。
希美はため息を吐き、構わず一人、でスタスタと両軍の真ん中に出た。
そうして、尾山御坊側の軍に向かい、大音声で呼びかけた。
「私はぁっ、御仏の加護を授かりし御仏の親友(ずっとも)お!えろ大明神の柴田権六勝家じゃあ!!」
じゃあ!……じゃあっ……じゃあ……ゃぁ……
語尾が辺りにこだました。
両軍とも、しん、と静まり返っている。
希美はまた呼びかけた。
「命が惜しくば、後ろの御坊に逃げ込めい!!我が軍は、一万を越すぞお!!」
すると、尾山御坊側の軍後方から、馬鹿でかい声で返事が返ってきた。
「誰が悪魔から逃げるかあっ!!我らは悪魔に屈さぬわ!」
希美も負けじと言い返した。
「よろしい、ならば戦じゃあ!!御仏の名を借りて殺生を促す悪徳坊主め!私が御仏に代わって、お仕置きじゃーーい!!」
その時であった。
にわかに大地が揺れ出したのだ。
地震である。
震度4から5弱といった所か。皆、恐怖を感じて地面に伏した。
希美はというと、驚いて立ったまま固まっていた。
けっこう長く揺れている。
すぐに希美もフリーズ状態から回復し、なんとなく辺りを見回してみる。
皆、しゃがみ込み、立っているのは自分だけ……ではなかった。
向こうで、利家がサーフィンのような格好でふんばり、「うぇーーい!」と、バランスをとるのを楽しんでいる。
(真の阿呆だ……)
希美は、いっそ尊敬すら覚えた。
そのうち地震も収まった。
(よし、しょうがない。逃げてくれないなら、えろの大軍で尾山御坊に押し込もう)
希美がそう考えて、出撃の合図を送ろうと久五郎らの方を振り返ろうとした時である。
……えろえろ南無阿弥陀仏。
祈る声がした。
尾山御坊側からだ。
ーー本物だったんじゃ。
ーー御仏の仕置きじゃ……!
ーーえろ大明神様は御仏の『ずっとも』様じゃあ!
「「「「「えろえろ南無阿弥陀仏!!!」」」」」
「……え?」
希美が戸惑っていると、すぐ後ろでバッと何かを開く音がした。
見ると、いつの間にか後ろに久五郎と龍興が立っていて、以前森部のえろ大聖堂て見た、後光と『えろ』の文字が入った大きな幕を二人がかりで広げ、希美の後ろにいい感じに後光を展開させている。
「な、何やってんの、君達!?恥ずかしいから、やめてえ!」
あたふたとする希美に、「黙って前を向きなされい!」と、腐っても武将の久五郎が一喝した。
「はい!」
希美はすぐさま尾山御坊側に向いた。
それを見届けた久五郎は大音声で語った。
「見たかあ!!これが、えろ大明神様の御業じゃあ!仏敵となりたい者は、立ち上がって我らに攻撃するがよい!!」
誰も立ち上がらない。
それどころか、至る所から、「えろえろ」だの「お許しを」だの聞こえてくる。
久五郎はその様子を見て、また大声を出した。
「えろ大明神様は御仏の如く寛大なお方じゃ!心から悔いておるなら、許して下さるぞお!我らの敵にならぬなら、尾山御坊に戻ってこの事を中の者に伝え、戦火に巻き込まれぬように親しい者を連れて去るがよい!えろに興味あらば、わしらに加われい!わしらは、えろを望む者をいつでも受け入れるぞお!!」
次の日。尾山御坊の大手門の前。
「えろ大明神様!どうぞ、お通り下さい!!」
尾山御坊が、勝手に落ちていた。
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