第125話 金色ハーメルン
時を少し遡る。
雪に埋もれていた飛弾の山道は、ここの所天気も良く、また春が近いせいか随分溶けて通りやすくなっており、地元のえろ民の協力もあって、美濃から来たボランティア軍は無事に加賀国に入る事ができた。
希美達はまず、加賀国に入った際の関を占拠し、えろ兵達に一旦休息を取らせた。
そこで、軍議である。
「ゴンさん、何か策はあるのか?」
輝虎が希美に聞いた。
希美は、頭をかいた。
「実は、無い!そもそも、情報が無い上、加賀の各地で反乱が起きてるとか、範囲が広すぎるし」
輝虎が呆れたように希美を見た。
その横で、利家が元気に発言した。
「ならば、やる事は一つだな!加賀中を馬で暴れまわろうぜ!」
「足軽はどうするんぎゃ……」
「こちらの数は二千で御座るぞ?暴れまわるには数が少なすぎる!」
秀吉と龍興が利家に突っ込んだ。
だが、希美は笑って言った。
「いや、えろ兵衛。兵数なら、増やせるぞ?」
龍興が不思議そうに希美を振り返り、久五郎が何かに気が付いたように自身の膝を叩いた。
「なるほど!隠れえろか!」
「そういう事だ」
希美は頷いた。
「我らはとりあえず、尾山御坊を目指して進もう。その途中で、積極的に内乱に介入し、村に寄り、隠れえろを取り込んでいく。馬ウェイクは、馬で暴れまわる。そうして、加賀のえろと尾山御坊に乗り込んで、敵を尾山御坊に押し込む。馬ウェイクは馬で暴れまわる。奴ら、籠城するだろうから、その間にみんなで来た道を引き返して加賀脱出!どうだ?やってみないか?」
「なるほど、馬で暴れまわるんですな。最高じゃないっすか!ヒャッホウ!やりますぜ!」
喜ぶ利家は無視して、希美は他のメンバーを見た。
輝虎は眉間にしわを寄せ、ため息を吐いた後頷いた。
えろ兵衛と秀吉も力強く頷く。
久五郎は、頷く代わりに希美に提案をした。
「なれば、隠れえろ達にお師匠様が一目で『えろ大明神』とわかるようにせねばなりませぬな!」
希美は、嫌な予感がして久五郎に聞いた。
「お前達、『えろ大明神』だの『仏敵殲滅 我有仏加護』だの書かれた旗指物をいつの間にやら量産してボランティア兵達に装着させてたじゃないか。わかるだろ?我らがえろの味方だって」
久五郎は、はははっと笑って何やら廊下に待機していた配下に指示し、希美に向き直って言った。
「お師匠様がその神々しいお姿を、より神々しく輝かせて見せねば、と言っておるのです」
そして、先ほどの配下が持ってきた大きな荷物を解いた。
「「「おおお!!」」」
場がどよめいた。
中から、金色に光り輝く鎧兜が出てきたのだ。
「き、金の具足(ごーるどぐそく)……」
希美は顎が外れそうになった。
金メッキが施されているのか、もう、全部が金ピカだ。
当然、例の兜も『えろ』が燦然と輝いている。
もう、完全にアレだ。
星座を背負ってバトルする金色の戦士のやつだ。
(し、柴田勝家って、何座の戦士なの?)
この時代、誕生日を祝う習慣は無い。あえて言うなら、皆正月(旧暦)に一斉に歳をとるから、この時代の人は全員アクエリアスの人だ!
「き、金!良いのう、金!わしも金持ちになったら、金の具足を作りたいのう」
金に目がない秀吉がうっとりと金の具足を見つめ、
「目立つ故、的になるだけじゃ。止めておけ」
と輝虎にたしなめられた。
希美は、震える声で久五郎に聞いた。
「お、近江の湖に、具足を落としたのか?まさか、銀の具足まで湖の女神にもらったのではあるまいな!?」
「何を言っておるのです?これは、御神体人形に着せようと作らせておったので御座る。いや、ちょうどよかった!お師匠様の具足は、鎧は何やら間に合わせのような代物だし、兜もずいぶんボロボロでしたからなあ。これならば、お師匠様にふさわしい!」
(そういえば、箕輪城を攻略した時に、剣豪のおっさん家臣(上泉伊勢守)が私の鎧を細切れにして、それ以降まだちゃんと鎧を新調してなかった……)
「いや、だからといって、これを私に着ろと!?異質すぎるわ!異質すぎる馬鹿野郎にしか見えんぞ!」
必死に拒否する希美に、輝虎が言った。
「確かに、こんな具足の武者が戦場にいたら、『的になるのもわからぬような類い稀なる愚か者』として、わしなら即座に斬り捨てる」
「ですよね!」
希美は自分に同調してくれる輝虎が、神に見えた。
しかし、現実は違った。
「だが、ゴンさんなら、話は別じゃ」
「え?」
「ゴンさんは、的になろうが死なぬ。ならば、注目を集め、畏怖されるこの馬鹿げ……いや、凄まじい具足は、利に叶っておる」
「今、馬鹿げた具足って言いかけたよね!絶対、馬鹿みたいだと思ってるよね!?」
輝虎は、使えぬ駄神だった。
「すげー!!かっけえ!なんかギラギラしてて、『えろ大明神様』って感じしますよ?!」
「馬ウェイクは黙ってろ!」
そして、希美は『金色(こんじき)馬鹿』となったのである。
「な、なんじゃ、ありゃあ!馬鹿じゃないのか?良い的じゃ!狙え、狙え!」
「えろ大明神様じゃあ!えろえろえろ……なむなむなむ……」
「な、一切攻撃が効かないぞ!刀が、槍が折れる!!人が吹き飛んでいく!?」
「えろえろえろ……なむなむなむ……」
「退却じゃあ!退け、退けい!」
「えろえろえろ……なむなむなむ……」
「あれは、真の神じゃ……御仏の御加護じゃ……えろえろ……」
「えろえろえろ……なむなむなむ……」
「わしが間違っておったのか……わしは、この世界のえろとなる!」
「えろえろえろ……なむなむなむ……」
「「「「「えろえろえろ……なむなむなむ……」」」」」
輝虎が眉間をしきりに揉んで呟いた。
「ゴンさんが普通に戦場を歩いているだけなのに、勝手に敵が戦意喪失して、えろ教徒に転んでいくのは、何故なのじゃ………」
希美は首をひねりながら答えた。
「知らんわ……私はただ戦場を突っ切って進んでいるだけだし」
久五郎は鼻息荒く手を広げた。
「やはり、金の具足効果!見て下され、この軍勢を!隠れえろや転びえろが集まりに集まり、その数一万を越しまする。我が軍は圧倒的ですぞ!」
「やめろ、縁起でもない台詞を吐くんじゃない」
こうして進み続けて、一月二十六日。
希美の率いる大軍勢は、尾山御坊の手前で行われていた合戦に突っ込んだのであった。
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