第119話 羅城門太郎爆誕!

久五郎を連れて堺を出た希美は、尼装を脱ぎ捨て柴田勝家に戻ると、一路京へと向かった。


沢彦も最後の船で京へと向かっているから、向こうで落ち合い、公方様の元にいる輝虎を回収予定だ。


その後東山の別荘に待機している六角領地行きのえろ難民を連れて、六角の難民キャンプまで行き、えろ兵衛を回収して岐阜に戻る。


出来れば信長への年始の挨拶に間に合わせたい所だが、既に十二月も半ば。間に合うかどうかは微妙であると、希美は推測していた。




(まあ、間に合わなければ、殿に『ごめんね』して『将・来・造・る・予・定・の・南蛮船献上』という空手形を切ろう!)




この時点で『空手形』と考えているあたり、希美の反省度はゼロである。


とはいえ、南蛮船を手に入れれば、どうせ信長が欲しがるに決まっているのだから、『南蛮船の造船に必要なんだと断って、将来造った南蛮船第一号を渡す』という約束が、希美の買った(現時点で買う予定の)南蛮船を守るためには必要な手立てであった。




そんな風に、取らぬ狸の皮算用な事を考えながら、雪の積もる道をひたすら進んだ希美達は、道中気がつけば希美を凝視する久五郎をしばきつつ、京に入ったのである。








「ら、羅生門……?いや、ボロッボロの廃墟だし、皆普通に門の外を出入りしてるし、これ門の意味あるの?」


芥川龍之介の『羅生門』を生で見れると、ウキウキしながら京の入口にやって来た希美は、屋根もほぼ残っていないそのあまりの荒れ果て様に愕然としていた。


『羅生門』の作中で、どっかの婆が死体損壊していた事件現場の二階は、階段はおろか床も穴だらけで、一階からきれいな青空が見える。


ショックを受ける希美に、久五郎は言った。


「羅生門?この門は羅城門ですぞ、お師匠様。そもそも、いつ崩れるかもわからぬ門の下をくぐる馬鹿はおりませぬよ」


「ぐ、ぐぬぬ……」


こやつ、久五郎の癖に生意気である。


希美は、他の通行人と同じように羅城門を大きく避けて京の都に入って行く久五郎から離れ、こうなったら意地でも羅城門を通ってやろうと門の中に入って行った。


「久五郎め!羅城門だか羅生門だか知らないが、中を通るくらいで崩れるわけがなかろう。ふんっだ、私は馬鹿で結構だ!」


希美は腹立ち紛れに羅城門の柱を蹴った。






ミシ……




「ん?」




ミシミシィッ……




「……え?」




ボギッ


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!


ガラガラッ


ドグワッシャアアアア……………………










「お、お師匠さまあああああ!!!!」


辺り一面、砂埃がもうもうと舞い上がり、何も見えなくなる。


「おい!あんた危ないぞ!」


ひき止める通行人を振り切って、久五郎は砂埃の中に突っ込んだ。


何も見えぬ中、羅城門のなれの果てに蹴躓けつまずきながら、久五郎は必死で師を呼んだ。


そのうち砂埃が落ち着き、段々辺りの様子がわかってくる。


久五郎は目を見張った。




もう羅城門は無い。


倒壊し、羅城門を形作っていた物が山のように積み重なっている。




久五郎が泣きながら希美を探していると、突如瓦礫の山が動き、内から弾き飛ばされたように豪快に崩れた。


そして、中から元気な『羅城門太郎』が……?




いや、薄汚れた希美が生まれた。




「お、お師匠様ああああ!!」


久五郎が希美に駆け寄り、抱きついた。


「ししし心配しましたぞおお!!」


希美は、最大級に焦っている。


「あわわわわ!ヤバイ!これはヤバイよ、久五郎!!なんで現代に羅城門が残ってないか、今判明した。私の仕業だったああ!!」


「お、お師匠様の馬鹿アア!!だから言ったで御座ろうがあ!」


「ご、御免ーー!私、馬鹿だった!結構どころか、今世紀最高峰の馬鹿だった!!」


久五郎は、希美を瓦礫の中から引っ張り上げると、血走った眼で希美を見つめ、言った。


「逃げますぞ」


「え?」


「すぐに侍所の役人共が来る。そうすると面倒で御座る。下手すれば、羅城門損壊の罪でお師匠様を抱える織田の殿にも処罰が……」


「超逃げよう!行くぞ!!」


「あ、待って下され!」


希美は、急いで立ち上がると瓦礫の中から荷物を探し出し、都の方へと全速力で走って行った。


久五郎も荷物を抱え直し、希美の後を追った。




その一部始終を遠くから眺めていた人々から、羅城門倒壊の様子が都の人々に伝わり、噂は一気に広まった。


その噂はこのようなものである。




『鬼が出た』。


『身の丈六尺近い鬼は、丸顔の従者を引き連れ羅城門に入ると、指先一つで羅城門の急所を突き、羅城門は爆散した』。


『鬼の胸には柄杓の形のおできが……』。




所詮、噂である。


尾ひれがつきまくり、もうなんだがわけがわからぬものに変容していた。


侍所の役人達は胸に柄杓の形のおできがある鬼を探し回り、希美と久五郎はなに食わぬ顔で足利義輝公のおわす御所へと入ったのだった。








「怖いのう……胸に柄杓のおできを持つ大鬼が都に入ったそうな」


そう言って身を震わせる将軍様を、希美は笑顔をひきつらせながら見やった。






※後書き

戦国時代の羅城門について調べてみたものの、荒れ果てているという信憑性がハテナな記述が見つかったくらいでよくわかりませんでした。

既に焼失とかしてたのかもしれないなーと思いつつ、まだかろうじて建ってた事にしています。


すみません。いい加減だと思って読んで下さい。(笑)



先ほど、『既に倒壊してた』情報いただきました!ひえー!!


とりあえず、ここではボロボロで残ってたって事にしといて下さい。だって、フィクションフィクション♪

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