第34話 ストッパーはノンストップ
「どういう事じゃ、権六ぅ……」
信長は額に青筋を浮かべながら、腹から絞り出すように声を出し、時を動かした。
(やっべー!未来予知!未来予知してしまった!!)
希美は冷や汗と脂汗が全身から吹き出す思いで、どうにか誤魔化せないかと激しく思考した。
(御仏の加護?いや、未来予知なんて加護、信長にいいように使い潰されるか、また他所の間者にぶりぶり入り込まれる未来しか見えない!)
その時、ふと希美の視界に一益のポカンとした顔が見えた。
(はっ!諜報活動!前の戦で諜報活動してたって事にすれば……これしかない!)
「殿、実は某、前の美濃攻めの折、斎籐義龍の病の噂を耳にしたので御座る。それによると、義龍は皮膚に異変を生じ、しばしば疼痛を訴えるとか。この度また情報を集めてみると、手足に軽いしびれも出始めたという話も出ておりまする」
(確か斎籐義龍って、ハンセン病にかかってた説があったよね。ハンセン病の症状ってこんなんだったような……映画で大谷吉継が頭巾被って歩けなくなってたし!)
希美の横で一益がギラギラした眼でこちらを見ている。
(うわ……自分が調べて得られなかった情報をなんでアマチュアのお前が知ってんだ、みたいな事思ってるよね。そりゃそーだ。そんな噂、存在しないし。今私が作ったし!!)
希美は一益を見ないように、目を反らした。
「なるほど。今の話が真なら、十中八九斎籐義龍はらい病にかかっておりますな」
丹羽長秀が珍しく真顔で考えを述べた。
希美も同調する。
「左様。症状の表れ方からみて、病は進行しておりまする。来年、早くて夏が始まる頃には命尽きておりますかと」
(確か、五月に死んだって転生もの小説で見たぞ)
「なるほどのう……前の美濃攻めでそんな噂をのう……」
静かに立ち上がった信長は軍配団扇を手に取ると、振りかぶって思い切り希美に投げつけた。
希美はひょいと避けた。
「なぜ避ける!!」
「鉄製ですぞ!?」
信長の理不尽な文句に希美は抗議した。
信長は打擲がうまくいかなかったので馬の鞭を手に取ると希美を打ち始めた。
「なぜ!評定で!言わなかったっ!評定の後呼んだ時も!黙っておったな!!」
「やめて下され、殿!痛くないけど、この公開プレイは皆の視線が痛い!」
「痛くないじゃと?!このっ!このっ!」
「お静まり下され!」
「殿!打つなら某を!」
プレイ……ではなく、折檻を続ける信長を佐久間信盛と滝川一益が慌てて止めに入り、なぜか池田恒興が希美と信長の間に身を投げ出し、四つん這いになるというカオスな状況が生まれていた。
(誰かなんとかしてくれ……)
希美の願いを叶えたのは、いつも希美を闇に巻き込もうとする男、丹羽長秀であった。
「殿、そのくらいで。不確かな情報など百害あって一利無しで御座りまする。柴田殿は此度の行軍で再度噂を確かめた後、殿に報告するつもりだったのでしょう」
「……うむ」
長秀の取り成しに怒れる魔王は止まり、その鞭を収めた。
長秀は冷静に進めた。
「では話を戻しますぞ。もし来年に義龍が死ぬならば、それに乗じてかなり有利に事を進められまする。自然、平定も早まりますかと。態々民に恨まれてまで青田刈りを進める事も御座いますまい」
「ならば、青田刈りは無しとする」
信長の決断に希美はほっとした。
(ありがとう、闇米!見直したよお!こんな奴が欠かせないなんて織田軍終わってるとか思ってたけど、今のでわかった。あんたやっぱり欠かせない奴だよ。信長のストッパー役として!)
希美は感謝をこめて、長秀を見た。
おや?こちらを見る長秀の口許が動いている。
(え?何?……あ……な……た……を……い……た……め……つ……け……る……の……は……わ……た……し……だ……け…………!?)
長秀は、長秀でしかなかった。
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