第33話 希美、ポロリする
さて、前回同様、一旦勝村に陣を張った信長等は軍議に入ろうとしていた。
小氷河期とはいえ、真夏である。
皆甲冑を着込んだまま、汗だくであった。
希美はというと、わりと涼しい顔をしている。
(不思議だなあ。暑いけど、特に気にならない。やっぱり、自然が多くて建物が少ないし、エアコンが稼働してないから現代みたいにヒートアイランド現象が起きてないからだろうなあ)
本当は、どんな過酷な環境でも問題ないほど肉体が魔改造されているせいである。暑さ寒さを感じてもこたえない異常な体になっている事を、希美は気付いていなかった。
「いやあ、暑いなあ。男ばかりでむさ苦しいし、ここは地獄だね」
兜の緒を緩め、面頬と喉輪を外した一益が下着の胸元からパタパタと風を入れている。
「そんなにだらけていると、殿に怒られるぞ」
希美は横目でちろりと睨んだ。
一益は不思議そうに希美を見た。
「権六はそんなにかっちり着込んで暑くないの?」
「暑いが、別に気にならぬな」
「権六は相変わらず真面目だねえ」
一益は白い歯を見せ、爽やかに笑った。
この一益という男、勝家よりも四つ五つ下の三十五歳だが、本当によくもてる。
醜男ではないが、美男でもない。二重で少し目が大きいのは、京風の美的感覚から言うと少しずれているだろう。
しかし、態度も爽やかで親しみやすい。雰囲気でもてる男なのだろう。末森城下で出会った一益は女を侍らせていた。
これが、全員希美の元に送り込まれた女間者というのも驚いた。
どうも寝返らせたらしい。
(まさか文字通りに゛寝゛返らせてたりしてな!)
希美は一瞬、心までおっさん化した。
一益は、良さそうな間者は取り込みながら、甲賀衆の配下を使い、あっという間に末森から間者を追い出した。
スパイとしても男としても、非常に優秀な彼だが、「私は鉄砲の方が得意なんだよねえ。甲賀衆はそっちでも鍛えてるし」と、嫌みなくらいできる奴なのだ。
勝家と一益は年が近い事もあり仲が良かったようで、私的な場面ではフランクに接してくる。
今も親しく話していると、ガシャガシャと音がして丹羽長秀、信長の乳兄弟である池田恒興と共に信長が表れた。
ふと一益を見ると面頬と喉輪をつけ兜をきっちり被った男がそこにいた。
(装着早っ)
やはりこの男、できる。
「軍議を開く。五郎左」
「は」
信長の言葉に、長秀が地図を広げた。
信長が地図を指し示しながら話す。
「今わしらがおるのが、ここ勝村よ。勝村は今後も拠点となる故残すが、これより北は軍の北上に合わせて青田刈りを行う」
「西美濃の国力を下げ、百姓の不安を煽るのですな」
「ハッハッハッ、これで一揆が起これば、義龍めも困ろうな」
「文句があれば、おのれの主に言えと言うてやりましょうぞ」
将達が口々に言い合う。
希美は思わず唸った。
(収穫する前に稲を刈っちゃったら百姓は何を食べるの?米が無ければお菓子を食べればいいじゃない、とはならんでしょ)
そんな希美の様子に信長が気付いた。
「なんじゃ、権六。何かあるなら申せ」
「美濃攻略後自領になった時、支配に響きませぬか?」
希美の言葉に信長はじっと見据えた。
「美濃攻めは一朝一夕で終わるものではない。義龍は堅く美濃は大きい。この戦で勝ってもあれを仕留めるには数年かかるやもしれぬ。乱取りこそ許さぬが、地盤から攻めるは道理である」
希美はこれを聞き、清洲の評定で思い出せず気になっていた事をやっと思い出せた。
(あれ?義龍って……)
「でも義龍、来年死ぬよね」
時が止まった。
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