第23話 勝家はん課長2

鬱蒼と草木が茂る森の中、突き飛ばされたのか、旅装束姿の女が倒れている。それを取り囲むように足を剥き出しにした屈強な男共が四人おり、下卑た笑いを顔に滲ませていた。


一人はまさに女にのしかかろうと、前屈みになり彼女の足を掴んでいた。




(なんというベタな展開……だが急がねば!女子として、リアル無理やり18禁は絶対許さない!)




「ぬぅうおおおおーーー!!」


希美は女子にあるまじき雄叫びを挙げ、手前の男にドロップキックをかます。男は衝撃ではね飛び、その後ろで前屈みになって女を襲っていた男を巻き込んで、もろとも地面に昏倒した。




「なんだ?!」


残りの男共が騒ぐ。


「ふんんっ」


希美は反撃の機会を与えぬよう、すぐさま体勢を立て直し、持っていた錫杖で意識を刈り取った。




「お見事です」


程なく次兵衛がやってきた。希美は問うた。


「こやつら、もしや例の盗賊か?」


「わかりませぬ。ただ、向こうの方で、その娘の護衛とおぼしき男が二人、老人が一人殺されており申した。いずれも一差しか二差し。手練れに御座る」


「こやつら、死んではおるまい。その辺りにこっそりついてきておる護衛がおろう。そやつらに任せて口を割らせよう。次兵衛、縛りあげておけ」


「御意。そこの娘はどうします?」




希美はしゃがんで女の顔を覗きこんだ。まだ若い。中学生か高校生くらいの年頃だろうか。


「さっきから動かんが、息はしておるようだ。気を失っているのだろう。とりあえず城下まで運んで医者に見せよう」


「殿が運ぶので?」


次兵衛の圧が増した。


「なぜそこで威圧感を出す……まあ考えても見よ。男に襲われたばかりだぞ。目が覚めた時、お主ら男に担がれていたら恐ろしいだろう」


「殿とて男でございましょう」


「……そうでした」


次兵衛は呆れて希美を見た。


「ま、まあ、誰が担いでもよいか!」


希美はこの問題をフルスイングで放り投げた。


「某が運びまする。」


「あ、はい」


希美は事前の約束通り、次兵衛の言う事を聞いた。






女を担いで城下町に戻った希美達は、意識の無い女を宿に寝かせ、そのまま医者に診せた。


医者は女の体を改め、脈をとり、多少の擦り傷はあるが特に異常はない、と診断し帰った。


女が目覚めたのは、それから四半刻程経ってからだった。




「う……ん…………、ここは……」


女が身動ぎし、声を発した。




(あ、やっと起きた)


「おお、起きたか」


希美はほっとして、声をかけた。


女の瞳が希美の姿を映すと、始めはぼんやりとしていた瞳は恐怖の色を宿した。気を失う前の事を思い出したらしい。


希美は慌てて言った。


「あー、落ち着け。そなたは助け出されたのだ」


「助け出された?」


疑うように女は希美を見た。


「うむ。街道を歩いているとそなたの悲鳴が聞こえてな、森の中でそなたが襲われていたので、私が助けた」


「え、でもあの男達は私の護衛をあっという間に倒した程強かったのですが……」


「本当の事です。この男は武芸で右に出る者はいない程強いのですよ」


先程まで石のように黙っていた次兵衛が、すかさずフォローする。


希美は宥めるように言った。


「ここは末森の城下町の宿だ。少しは落ち着いたか?」


女は得心したのだろう、三つ指をつき、頭を下げた。


「命の恩人に、失礼な事を申しました。私は千津と申します。あなた様は……?何やらご立派なお方とお見受け致しましたが」


「あ、いや私は……」


(まあ、末森のトップだし、立派っちゃー立派だけど、今はお忍びだからなあ。言うなれば会社の社長が役職名を偽って社内をうろついているような……お忍びってどれくらいの役職だとちょうどいいのかな)


「課長あたりかな……」


「かちょう??」


(あ、しまった)


「あー、私の名だ(大嘘)。見ての通り、山伏でしてな、課長坊と申す」


「課長坊様……」


「そして、こっちが次長坊」


ついでに、次兵衛を紹介する。


(こいつは、次長にしてやろう、ぷぷぷ……)


次兵衛は一瞬目をむいてこちらを見たが、すぐに穏やかに自己紹介を始めた。


「次長坊です」


流石の次兵衛である。すぐに主の意を汲んで合わせてきた。忠誠度MAXの男だ。


(お前とはいいコンビを組めそうだよ、特にお笑い的な方面でな)




「さて千津殿」


希美は仕切り直した。


「そなた、これからどう致す?そもそもどこへ向かうつもりだったのだ?」


「はい、私は境の天王寺屋所縁の者でございます。所用がありまして親戚を尋ねに末森城下に参っておりましたが、今日、境に戻るつもりで親戚の家を出たのでございます」


「なるほど、その途中で襲われたのか」


千津は頷いた。


「はい。それよりも、他の者達は……」


「死んでいたのは、護衛と見られる男が二人と老人一人だ」


「夏、女中の夏は……?」


千津はすがるように希美を見た。


「女はそなただけであったな」


「夏は私を逃がそうと囮になったのです。連れ去られたのかも」


「という事は、連れ去った分も含めて、賊は四人ではなかったということか」


「七、八人はおりました」


希美の呟きに千津が答えた。


「これは、当たり、ですかな?」


次兵衛の口が弧を描いた。




(女中をその場で犯さず連れ去ったという事は、どこか拠点があるという事。動きも組織立っている。もし千津を襲った賊が盗賊団の一部であれば、捕らえた賊が良い手札になろう)


希美は、くつくつと笑った。








「ところで課長坊殿、何やら楽しそうですな」


「え?」


「課長坊殿の行動には、時々驚かされますからな。今後の予定について、洗いざらい考えをお聞きしたい」


「え、……そんな無茶な事は考えてないぞ」


「報告、連絡、相談は大事ですからな!」


「あ、はい。すみません」




やはり課長は次長に頭があがらなかった。

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