第22話 勝家はん課長1
末森城に戻って二週間が過ぎた。
城主としての仕事を、勝家の記憶と肉体チート頼りでこなしつつ、全力で坊丸に絡んでゆく毎日だ。
バカ殿とまではいかぬものの、城主はふんぞり返って部下に仕事を振ればなんとかなるとどこかでたかをくくっていた希美は、その考えを改めざるを得なかった。思った以上にデリケートな案件の多い仕事で、部下の意見は聞けても決断はトップがしなければならず、しかもちょいちょい部下の意見が分かれ、なかなかに城主としての力量を試されるのだ。
そんな中、気になる案件が上がってきた。
「盗賊が出る?」
「は、桶狭間の折に逃げ出した足軽崩れが付近の食い詰め者を取り込み徒党を組んでおるようで、少々の数では御座りませぬ。」
奉行方の高井彦五郎が答えた。
「どのくらいいるのだ?」
「五十とも六十とも。新野村の廃寺を根城にしていると報告が上がっており申す」
「一集落ほどおるではないか!」
家老の一人が声を上げた。
「そのような人数、一つ所の寺だけでは無理があろう。村ごと盗賊の本拠地になっておるのではないか?」
次兵衛の言葉を受けて希美は彦五郎に問うた。「新野村の事が知りたい。最近変わった事はなかったか?」
彦五郎が答えた。
「新野村といえば、前年、流行り病が発生し、村の人数がずいぶん減ったため、殿が税の免除を行われました」
希美は勝家の記憶を思い返し、確かに二年間の税免除を申し渡した事を確かめて言った。
「確かにそうであったな、子どもや老人を中心に、若い働き手も多く失ったため、二年間税を免除した。村の人口が半分になった、と聞いたが」
「そこを盗賊どもに突かれましたな。一家全滅も何軒か出たろうし、そこにも入り込んでおろう」
次兵衛は穏やかな口調で見当をつけた。
希美は彦五郎を見た。
「彦五郎、まずは情報が欲しい。村にそれとなく監視を付けよ。誰ぞ入り込める人間や村の人間で信用できる者を使って、賊の正確な人数と配置、出入り、賊に協力している者を探すのだ。それらを確認し次第、討伐の動きを考えよう」
「はっ」
「次兵衛、面倒な捕物となるやもしれぬ。百は欲しいな。討伐隊の人数を集めよ。街道筋の警らにも人をまわせ」
「御意」
(よかった……愛読書が『鬼○犯課長』で。めちゃめちゃ参考になってます、火盗改めの鬼の人!)
希美は同じ鬼の称号を持つあの人に感謝した。
次の日、希美は山伏姿で城下を離れ新野村に向かっていた。
傍らには同じ山伏姿の次兵衛の姿がある。
おじさん同士のペアルックだ。
当初、希美自ら偵察に行く事は、当然皆から反対された。
次兵衛なぞ、「君子危うきに近寄らず」を百回言わせ、それでも譲らぬ希美にさらに百回を1セットと、結局10セット目にして次兵衛が根負けした。
(あれは、完全に洗脳にきてた。もうまわりも次兵衛を見る顔が青ざめてたし、最近次兵衛が仕上がり過ぎてて、怖い)
次兵衛は、立派なヤンデレに仕上がりつつあるようだ。
そもそも希美がどうしても直接偵察に行きたがったのには理由があった。
指揮をとるのに的確な判断を下すため、事前に自分の目でも確かめておきたい。
これは皆への建前で、本当は、
(だって、尊敬する鬼の人も、盗賊を捕まえるためにお忍びで潜入捜査してたんだもん)
これだった。
希美は皆を説得し、同じく変装させた護衛をつける事、必ず同道する次兵衛から離れない事、次兵衛の言う事をよく聞く事を条件に、お忍び潜入捜査が許されたのだった。
次兵衛から何やら含み笑いが聞こえたが、希美は考えない事にした。
突如、遠くか細い悲鳴が聞こえた。
女の声だ。
「事案発生か?!」
希美は駆け出した。
道をそれて五分ほど走った森の中、希美達は『四人の男達に襲われる若い娘』という、時代劇では定番中の定番な場面に遭遇したのである。
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