第8話 夢だけど、夢じゃなかった

ピーピピピ、ピキョピキョピキョ、ピピ……




「う、るさ……」


無意識に呟いた希美は、徐々に意識がはっきりするのを感じる。どうやら窓の外に鳥が来ているみたいだ、そんなことを考えながら、光が射す方向へと目を向けた。




(あれ?障子??実家に帰ってたっけ?)


マンションの我が家には洋室しか存在しない。


希美は思わず和室のある実家かと考えたが、段々と意識が明晰になるにつれ、実家にある障子とは違うことに気付き、ガバリとその身体を起こした。




「え?どこ?」


室内をキョロキョロと見回し、希美は思い出した。夢の中の出来事を。


ハッとして着物をはだけさせる。




胸、……ない。


腹の脂肪、……ない。


褌の中、…………ある。




(嘘でしょ……)


Fカップの巨乳だったんだぞ、デブだけど。希美はちょっとだけ現実から逃げた。


しかし、逃げたところで胸は無いのだ。


あってはならぬものはついているが。




「ゆ、夢だけど、夢じゃなかったー……」


いつか言ってみたいと思っていた有名な台詞を呟いてみる。空しく室内に響いた。


(この台詞って、こんな絶望的な感じになるもんなんだ)


希美は、へたりこんだ。




希美は考察してみる。


(最後の記憶は、お迎えの途中で道を歩いている時、なんかすごい衝撃があった事。その後、気がついたらちょんまげだらけだった)


(異世界転生……いや、逆行転生、憑依転生か?)




希美は昔から小説が好きだった。


子どもの頃は図書館に入り浸り、シャーロックホームズやアルセーヌルパンを読んだ。ライトノベルにもはまり、恋愛ものを中心に乱読した。親もクリスマスプレゼントに、天文学シリーズや古典文学全集を枕元に設置した。


長じては時代劇好きもあり、時代小説にもはまったが、最近では倹約もあり、無料の小説投稿サイトの作品を乱読するようになった。


その中で特にはまったのが、転生ものだった。




(所詮、小説の中だけの話だと思ってたけど、まさか自分がそんな目に合うとは)


希美は呻いた。


「何で男……」


(TSとか、誰得なのよ)


女として生まれて四十ウン年。男に生まれたかったと思ったこともある。しかし、今さら体を男にされて、戸惑わないはずはない。




(これからどうしよう)


希美はまだ知らない。


今がいつなのか、ここがどこなのか。


自分が誰、なのか。




「柴田様、お目覚めでしょうか?」




希美がそれを知るのは、まもなくだった。

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