第5話 DV、ダメ、絶対

(やばい、夢から覚めない……)




現在希美は、謎のちょんまげ兄さん≪信長≫にぼっこぼこに足蹴にされていた。


しかし全く痛みを感じない。希美は判断した。このちょんまげ兄さんは、非力である、と。




なにやらむちゃくちゃ怒っているちょんまげ兄さんであるが、一体自分が何をしたというのか。痛くはないが、このようにか弱きおばちゃんを平気で足蹴にするなど、人としていかがなものか。希美は段々と腹が立ってきた。




(夢とはいえ、ほんと腹立つわ、こいつ。さっきから他のちょんまげ達も、ごんろくあやまれ、だの、めちゃごんろく呼ばわりしてくるし。ごんろくって誰やねん。お百姓さんかよ)




希美はこのままでは埒が明かないと、激おこちょんまげ兄さんに話しかけることにした。




「あ、あの!≪男声≫」




(ん?)




「んんっ、あの!≪男声≫……うぇ?!≪男声≫」




「おかしい……声が低い。のどやられたのかな?……あー、ええと、すみません。なぜ、私は蹴られているのでしょうか?」




ちょんまげ兄さんが何故かいきり立った。


「そのような事もわからぬかぁっ!このうつけめが!」




(わからねえから聞いてるんだろ、このハゲ!)


「そもそも、あなた誰なんですか?これは完全に暴行ですよね。警察呼びますよ」




「「「「「「え?」」」」」」




ちょんまげ兄さん含め、周囲が固まった。




「お、おい、何言っておるんだ権六よ、このような時にそのような冗談なぞ、いくら何でも無謀すぎるぞ」≪ちょんまげ髭おっさんA≫


「まさか頭打っておかしくなったんじゃ?」≪ちょんまげ髭おっさんB≫


「おいっ、医者はまだか!」≪ちょんまげ髭おっさんC≫




希美は慌てふためく周囲を見回した。


(ちょんまげしかいない……そして髭率高っ)


そしてふと気づく。


(あれ?板張りの和室?なんか時代劇で見たことあるかも。あー、そういうことか。時代劇ファンだからこそのこういう設定の夢か。でも、ちょんまげに蹴られる夢とか、そんな高度なプレイ求めてないんだけど)


どうせなら、暴れる将軍に優しく口説かれる夢だったらよかった……そんなことを考えていると、ちょんまげ兄さんが訝し気に話しかけてきた。




「権六、わしの事がわからぬのか?」




「いや、そもそもごんろくって誰?」




希美の言葉に、皆絶句する。


カタン。手が当たったのだろう。誰かが倒した提子の音がやけに響いた。

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