真実?嘘?の暴露監禁ゲーム

ちびまるフォイ

私はもちろん、真実派!

目を覚ますと手首と足が椅子に固定されていた。

人参でも吊るすように、目の前にスマホが吊るされている。


「ここは……?」


見渡すと、自分以外にも拘束されている人がいた。

声をかけて起こすとキョロキョロと見回している。

その様子から自分と同じように連れてこられた人なのだと察する。


『次は NO1 さんの番です』


部屋のスピーカーから機械的な音声が聞こえ、

おじさんの隣に座っている若い男の椅子が光った。


「え? え? 俺? なに? なんなんだよ!

 おぉーーい! 誰か! 助けてくれ! 閉じ込められてるんだ!」


「騒ぐな! 助けは来ない!」


隣のおじさんが一喝した。


「騒いでも助けはこない。我々はこのゲームをするしかないんだ」


「ゲームってなんだよ。映画とかで見た殺人ゲームとかじゃないよな!?」


「……」

「そうなのか!? 教えてくれよ! なんで黙ってるんだよ!!」


ビー、とブザー音がなる。


『次は NO2 さんの番です』


今度は隣のおじさんの席が点灯する。


「……私は、浮気をしている。職場の女性とだ。

 浮気は私から声をかけて始めた。彼女とはもう3年になる。

 最近は子供ができたと言われ、妻とは別れようかと考えている」


「おいオッサン! なに喋ってるんだよ!?」


「黙ってろ! 今は私の番だ!!」


おじさんが話し終わると、椅子の下にある箱のポイントが

「100」から「60」に減った。


『次は NO3 さんの番です』


アナウンスされると、

次はおじさんの隣に座るスーツの男の椅子が点灯した。


私は思い切って、先程のおじさんに聞いてみることにした。


「あの、あなたはこのゲームが何か知ってるんですね」


「……ああ」


「教えてください。私達はいったい何に巻き込まれているんですか!?」


「足元の箱があるだろう。100ptと表示されている箱が。

 これから順番に自分のことを話し、内容によりポイントが減る。

 0ptになれば拘束が解除される」


「それで、さっきは浮気の話をしていたんですね……」


自分の浮気話をしたことで、ポイントは40pt減算。

よりゴールへと近づいた。


「待ってくれ。それじゃ目の前に吊るされているスマホはなんなんだ?

 僕らの様子を撮影でもしているのか」


「ここで話す内容は嘘でも真実でもポイントは減る。ただ――」


「マジかよ! それなら嘘しゃべりまくって、

 あっという間にポイント減らして脱出してやるぜ!」


すでに番を過ぎた若い男は騒いだ。


「ただ、嘘を話してしまうと、即SNSで拡散される。

 そのスマホはそれを本人に伝えるためのものだ」


「そ、そうなのか? それじゃ……僕は女だ」


スーツの男は自分の情報を話した。明らかな嘘。

男のスマホには登録されているすべてのSNSを通じてその嘘が発信された


>女って、実はゲイってこと?

>人は見た目じゃないんだなぁ


すぐに反応はあったが、対して影響はなかった。

スーツの男のポイントが15pt減った。


『次は NO4 さんの番です』


私の椅子が光った。


「あの、嘘だと自動で拡散されるんですよね……?

 真実を話したらどうなるんですか?」


「なにもない。ここだけの話で終わる」


「おい! 今履いてるパンツの色を教えてくれよ! アハハハ!」

「君! こんなときに何言ってるんだ!!」


若い男のセクハラを、スーツの男が諌める。


「私は……犬を飼っています」


目の前のスマホのディスプレイが光り、その情報が自動拡散される。

真実を話す必要もないので簡単な嘘をついた。


私の持ちポイントが10pt減った。



『次は NO5 さんの番です』



私の隣に座るおばあちゃんの椅子が点灯した。


「次は私かぃ? 聞いたけど、よくわからないねぇ。

 つまり、ここで自分の話をすればいいのかぃ?」


「あまり嘘はつかないほうが良い」


おばあちゃんの番になって初めておじさんがアドバイスした。


「嘘でもポイントは減るが自動拡散される。

 嘘ばかり言う人間は世間から見放されてしまう。

 ここを脱出したところではれもの扱いされるからな」


「き、君! そういうことは早く言いたまえよ!」


嘘でポイントを削ったスーツの男はすぐに反論する。


「そうなのかぃ。でもねぇ、わたしはえすねす?をやってないからねぇ。

 私の名前は菊池トヨ。カレイの煮付けが得意でねぇ。

 戦争で家が燃やされてしまって、厨房でお仕事をしていたんだよ」


おばあちゃんは自分のことをゆっくりと話し始めた。

話し終わると、ポイントは一気に削られて残り50pt。


『次は NO1 さんの番です』


順番が一巡し、また最初の若い男へ回る。

初回は何も話せなかったのでポイントは低いまま。


「そうだなぁ。あ、思いついた!

 週刊新聞の雑誌あるだろ? あれは全部嘘っぱち!

 雑誌記者はネットでテキトーに検索したデマを書いているだけのクソ雑誌さ!」


「なんだと!!! 貴様、ふざけるな!!」


若い男の言葉に、スーツ男が激高した。


「お、おいどうしたんだよ急に。でかい声出すなって。

 こんなのどう考えても嘘に決まってるだろう?」


「貴様の嘘が拡散されてるんだよ!

 信じる人がいたらどうする! 名誉毀損で訴えるぞ!!」


「あなたは雑誌記者なんですか?」


「ああ、そこのクソガキが悪く言った雑誌の記者だ。

 雑誌の売れない時代に、この手のデマは本当に迷惑だ」



『次は NO2 さんの番です』


アナウンスは事務的に順番を進める。


「お、おい! 俺のポイント減ってねぇぞ!?」


「バカが。自分の関わらないウソはポイントにならない。

 自分の身を削らずに脱出できるわけ無いだろう」


「先に言えよ、クソジジイ!!」


「私はよくひとりで釣りに出かけることが多い。 

 それは釣りが好きなわけじゃなく、家にいるのが嫌なだけだ。

 結婚30年の妻同じ空間にいるのが耐えられない。

 仕事の疲れを取るために家にいるのに、

 家にいるのなら家事という仕事も手伝うのが当然だと思われるからだ」


今度はスマホが反応しなかった。話したのが真実なんだろう。

おじさんのポイントがまた減った。


『次は NO3 さんの番です』


「僕は、先日大手の芸能事務所からタレントの記事を

 お金を積むからもみ消してほしいと圧力を受けた」


記者のポイントがわずかに減った。


「もったいないな。そのタレント名や、金額。

 その後どうしたかなどを細かく語ればもっと減らせたものを」


「そんなこと、ここで言えるわけがないだろうっ!」



『次は NO4 さんの番です』


私の番が回ってきた。


「あの、ひとついいですか?」


私はどうしてもおじさんに確認したいことがあった。


「どうして、あなたはそんなにルールを知っているんですか?」


「そうだよ! 同じように拘束されてるのに詳しすぎる!

 てめぇ、本当はこのゲームの仕掛け人なんじゃねぇか!?」


「……ちがう。君たちはポイントの意味を知らないだけだ」

「意味?」


そういえば、このポイントの意味はわからなかった。

暴露話のプライベート度合いを測るのであれば、

わざわざ100ptから減らすのではなく「今のは30点!」とかつければいい。


「そのポイントが0になった人から解放され、

 残った最後の1人はこの部屋に残る」


「なっ……」


「てめぇ、だから最初にルール説明しなかったのか!

 俺が先にポイント減らさないように妨害してたんだな!!」


「早く君も話したほうが良い。話がないとブザーがなりスキップするぞ」


おじさんは若い男の文句には耳を貸さずに助言した。

ここだけの話で終わる真実か、拡散される嘘か。


「わ、私は……たくさんの人と写真を撮っています。

 それでお金を稼いだり……しています。

 でも、中には写真取るのが嫌な人もいて……

 必死に笑顔を作っています」


全員がぽかんとした。スマホが反応しないので真実。

ウソをつけば自分は傷つかないが、ネットでの信用を失う。


脱出後のことを考えると、ネットに消せない傷跡をつけるより

特定されないようなここだけの話をしてごまかすのが一番だと思った。

ポイントが減り、次の人に順番が移る。


『次は NO5 さんの番です』


「私はねぇ、デイサービスをやっているんだけど

 隠れてよく蹴ったり殴られたりしているんです。

 でも私はそれを話すのができなくてねぇ」


それはウソであってほしかったが、真実だった。

ウソなら拡散されてきっと問題視されるだろう。

おばあちゃんのポイントが減り、順番が移動する。


 ・

 ・

 ・


ガチャン。


真っ先にポイントを0にしたのは、NO1のおじさんだった。


「ふぅ、これで解放された」


目の前に吊るされたスマホを引きちぎり、壁の前に立つ。

抜けたおじさんをスキップされて順番は繰り返される。



ガチャン。


「おや、外れたよ?」


次に抜けたのはおばあちゃんだった。

真実しか話さないのと、話す内容が長く個人的な内容を含んでいたので

1回で減らすポイントの量が多かった。


「残りは3人かよ……」


若い男と、私と、雑誌記者。

このうち1人が部屋に残される。


『次は NO1 さんの番です』


「ああ、もう、隠そうかと思ってたけど話すけどよ。

 俺Youtuberなんだわ。顔は隠してるけど、サジタリウスって名前の。

 前に炎上した動画「犬小屋燃やしてみた」は炎上前提で作ってて、

 アンチをあぶり出して、アク禁にさせるのが狙いだったんだよ!!」


若い男のポイントがいっきに減らされる。

今回もスマホは反応しないので真実。


「へへへ、やったぜ。残ってたまるか!」



『次は NO3 さんの番です』


「私は最初刑事事件などを告発する記事を書いていた。

 しかし、記事を見た黒い団体が圧力をかけ始め

 私の家を特定して脅しをかけたんだ。それも告発を考えたが

 家族に迷惑がかかることを考えて辞めた」


これも真実。記者のポイントが減算されて0になった。

やはり拡散されるウソよりも、ここだけの話の方が良いのかもしれない。



『次は NO4 さんの番です』


「実は……私はアイドルです。まだ一部未公開ですが、

 事務所で一押しのアイドルとして売り出すとうけています。

 グループ『パーティガールズ』という名前でデビューして

 すでにシングルも決まっています」


「マジかよ!? すげぇ!」


私のポイントは残り10ptまで削られた。

あと一歩のところで残ってしまい、もっと踏み込んで暴露しておけばと後悔する。


残りは2人。

若い男は最初の出遅れが災いして残り40pt。私は10pt。

これだけ離れていれば



『次は NO1 さんの番です』



「なぁ、あんたスマホで拡散しなかったってことは

 あんたがアイドルだってことは本当なんだよな?」


「……ええ。それがなに?」


Youtuberはニヤリと笑った。


「俺、Youtuber・サジタリは、パーティガールズと交際していま~~す!

 関係者の目を盗んではお互いの家を出入りしていちゃついて、

 ファンのキモオタの話を聞いてはざまあみろって勝ち誇ってまーーす!」


「ちょっ!! なに言ってるの!?」


スマホが点灯し今のウソが自動拡散される。


「アハハハ! コレ以上の暴露はないだろ!

 デビューしたてのアイドルが交際なんて、最高のネタだよな!

 まぁ、俺は炎上して動画見てもらえれば収入増えるけど!」


「このっ……!」


個人的かつ大規模な内容だっただけにポイントは大きく減る。


ガチャン。

Youtuberの男の拘束が解け、最終的に私だけが残った。


「女はバカだな! 自分の素性を話すから

 こうしてウソを盛られて騙されるんだよ!」


「あんた何様!?」

「通信のできないその部屋でせいぜい騒いでろよ」


ギギギと、部屋にあった鉄の扉が開く。

おじさん、おばあちゃん、雑誌記者、そして若い男が部屋から出ていった。


扉がふたたび閉じると鍵のかかる音が聞こえた。


「そんな……どうして……」


もっと自分のことを話せばよかったのか。

アイドルと感づかれないようにウソを貫けばよかったのか。

いずれにせよ、もうどうにもできない。





『次は NO4 さんの番です』



「……え? 私? なんで? もうゲームは終わったはず」


ゲーム終了で自分のポイントも表示が消えている。

これ以上何を話してもポイントが変動することはないのに。



『この部屋を出た人間はここでの記憶のすべてを失います。

 そして、あなたは次のゲームへの参加が義務付けられます』


「……そうだったんだ。ここで話した真実を知っているのは私だけなのね」



『さぁ、NO4さんの番です。

 ここであなたが話した真実の内容が多いほど、

 あなたが参加する次のゲームの参加者の人数は追加されます。

 そして、今回のみ真実も拡散されます』


私以外の参加者が多くなれば、当然私が脱出する可能性は上がる。

みんなの真実を知る人間はもう私ひとり。


『真実を拡散しなければ規定人数での再ゲームとなります。

 脱出した人の真実を語って、追加の人数を集めますか?』


みんなの情報を守って次のゲームを行うか。

自分を有利にするために真実を吐くか。


私は口角が自然と上がる。



「そんなの決まってるじゃないですか」

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