19

《数年後》

あれから僕は聖也くんを中心に友達が増えた。聖也くんのお父さんとも仲良くなれた。平穏で、それなりに上がったり下がったりの日々を繰り返し。

その中で春昭の姿は学校で一度しか見かけなかった。高良さんも春昭も辞めたらしい。そしてわら人形もいつの間にか潰れていて、完全に彼等の消息は掴めなくなった。

あの時のことは素直に良いものだったとは思えない。けれどあの事で知る世界もあった。皆、どこかしら汚れていて壊れている。それをなんとか綺麗にしようとして、疲れてしまうのかもしれない。

彼らとは関係しない世界で過ごしていたけど、僕はそんな通常の中で、普通の中で……たまに普通を抜け出したくなる。


「ただいま」

ドアを開けると色とりどりの制服を纏った少女達がいる。その中の一人がひらりとスカートを揺らして近寄った。

「おかえりなさい」



《my room》

「祥子は食べ物で何が好き? ああ、これは確認だよ。だって好きな食べ物って年齢によって変わるし、気分もあるからね」

「……お菓子」

「お菓子か。そっか甘いもの? 俺も好きだよ。何が一番好きなの」

「きなこ棒」

「はは、ちょっと渋いな」

「あと、かき氷……」

「かき氷? お菓子なのかそれ……。まぁ、いいや。そういえばうちに機械あったっけ、久々にやってみようか」

「……」

「じゃあ待っててね。ちょっとシロップ買ってくる」

「……うん」

「……」

「……お兄ちゃん」

「ん?」

「あ……イチゴ味、ある?」

「うん。お店で探してくるね」

「……でも他の味でもいいよ」

「いや、祥子が食べたいならちゃんと探してくるから」

「…………行って、らっしゃい」





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セーラー服と眼帯うさぎ 膕館啻 @yoru_hiiragi

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