第40話 レイ王女

 停戦も何も無い。ただ、攻撃する。

 あすかは小型艇2機を着艦させて、戦線から離れた。そして俺は、カークとやり合っていた。

『貴様など認めん!』

「結構だけどな、別に」

 ビットでビットを迎撃し合い、フェアリーはその機体と、ライフルで、ブレードでやり合う。

 真理もユウも、狙撃するにはポイントが離れている。ヒデも別のとやり合っており、釣り出し作戦はどうも無理らしい。

 斜め上後方に意識を抜き、フェアリーを加速させた。

 敵はビットを飛ばしはするが、自分は接近戦タイプらしい。ビットの攻撃を打ち消しながら、ライフルで牽制して接近させない。

 ビットを扱えるとは言え、攻撃が雑になってきている。おかげで、相手のビットは全部叩き落し、ライフルで左肩関節を撃ち抜き、後はとどめと思ったら、全体に対して声が響いた。

『戦闘を中止して下さい。わたくし、レイ・リ・マールの名において命じます。フレイラ軍は戦闘を今すぐに中止し、戻りなさい。革命軍、地球の方も、戻って下さい』

 全体が動かずに膠着していたが、ややあって俺にも帰艦命令が下り、俺はあすかに戻った。

 そして、真理、明彦と操艦室に戻って、驚いた。

 レイ王女と父とラドさんと隊長が、額を突き合わせていたのである。


 偉い人達は応接室へ行き、俺達はそれを見送るや否や、騒ぎ出した。

「何でここにいるんだ?あれ、レイ王女だよな?」

 すると峰岸さんが、クルリとこちらを向いて教えてくれた。

「サリって人に、クルーザーだと誰が乗っているか丸わかりだからと、革命軍の船を借りてそれに乗るように言われたんですって。でも、出た途端、味方の貴種に攻撃されて、取り敢えず危ないから、手近なあすかに来たそうですよ」

「いや、取り敢えずって・・・」

 俺達はそれでいいのか、これからどうするつもりなのかと、少し心配になった。

「それで、あの騒ぎは結局何だったんだ?」

 ヒデがそれを訊く。

「会談に使っていた部屋の花瓶に爆弾が仕掛けられていたそうです。規模は小さくて、皆無事だったとか」

「ふうん。会談の邪魔が目的かな」

 ユウが唸る。

「でも、誰や?まあ、準備したんは向こう、会談の内容を呑みたないのも向こうやけど、裏はないんか?」

「裏を考え出すと、止まらなくなるんだよなあ」

 真理が言って、皆、うんうんと頷く。

「まあ、こっちに近い考えの人だから、これはこれで良かったんじゃないかな?」

「しっかりと説得したいな。無理なら、人質か」

「うわっ。ヒデ、悪い人の考えだぜ、それ」

「それが大人。子供にはわからないかな。フッ」

 ギャアギャア騒ぐ明彦をからかっているヒデを見て思う。確かに人道的ではないかもしれないが、戦略的には正しい。

「はいはい。お子様はお勉強ね。3人共、部屋で課題をして来い」

 ヒデに追い出されて、俺達は自室に戻った。


 情報をもたらされたのは、翌日だった。

 レイはアルに無線で連絡を入れ、アルと貴種の一人であるルネ・トーリがこっそりと迎えに来た。

 その2人に、レイはあった事を全て話した。

「まあ、サリの言った事は、間違いではありませんね」

 言いながら、ルネは眉を顰めている。

「カークだが、サリに、革命軍がやった事に違いないと言われて、飛び出したそうだ。そして、革命軍のリーダーが逃げるから撃ち漏らすな、と言われて、攻撃したらしい」

「・・・サリは、殿下を亡き者にする気だったのでは・・・」

 そのまま3人で、黙って考え込む。

 それを、俺達は離れて見ていた。

「あれ、内緒で話さなくていいのか?」

「知らないけどぉ」

「誠意かもな」

 小声で交わしながら、目は離さない。

「この前お兄様には言いましたが、わたくし、今の遺伝子による支配制度に反対です。地球人も、今となってはもう別の星の人ですわ。制度の撤廃にも、地球への不可侵にも、賛成です。それの何が問題ですの?」

 レイが2人に訊く。

「急な変化は、混乱の元だよ。それに、皆平等と言っても、結局は能力差があって、格差はできる。不満は一緒だよ」

 アルが言うのに、レイは正面から目を向けて言う。

「急とはいいますけど、不満はずっとありました。それが高まっていて、こうして地球の皆さまとも会談が持てた今が好機ではないかしら。

 それに、チャレンジの機会さえないのと、それは別ですわ。格差が同じなら、生まれ持ったどうしようもない物で押し付けられる格差より、断然ましでしょ。

 あなたはどう思いますの?」

 ルネは目を向けられて、一瞬考えてから口を開く。

「わたしは命令に従うだけです。反逆はいたしかねます」

「考えを聞かせて頂戴。あなた個人の」

「・・・個人的には、レイ殿下のお考えに近いかと。ただ、制度の撤廃に関しては、撤廃そのものはしても、何かしらの段階的措置なりが必要かと」

「そう。

 いいわ、こうしましょう。ルネ・トーリ、あなたは現時点からわたくしの騎士になりなさい」

「は?」

「わたくしに仕えていればいいの。成人を前に、騎士を決めるのが伝統でしょ」

「いや、レイ。それはもう、有名無実なものだよ」

「伝統、伝統と言い張るのはどなた?」

 レイがふんぞり返り、アルとルネが呆然とする。そして俺達は噴き出した。

「ご、ごめん、なさい。くくく」

「いやあ、お姫様、やるね」

「やっぱり、口で女に勝てないのは、どこも同じだぜ」

 アルとルネは、ガックリと肩を落とした。

「ルネ・トーリ、謹んで拝命いたします」

「おい・・・」

「お兄様。一緒に改革をいたしましょう。まず停戦をして、革命軍の自治を認めて、そしてその間に、緩やかに改革を進めていく事だってできますわ」

 そして、アルとルネは言いくるめられて、レイと帰って行った。

「どうなるんだろうねえ」

 見送りながら、言う。

「周りの決定力のある人達は、伝統派だろ?簡単には行かないだろうな」

「でも、期待はできるぜ」

「ま、そうだな」

 正直、このまま素直に終わるとは、思えなかった。


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