第41話 狩りと罠

 カークは謹慎処分を受け、閉じこもっているらしい。

 そしてサリは、追及をのらりくらりとはぐらかしていたが、レイ、カーク、アルの証言から取り調べを受ける事になり、逃亡したと、レイに聞かされた。

 無線でやり取りしているのだ。

「逃亡してどうする気だろうな」

「クーデター?」

「おお、ありそうだな」

 食後のイチゴ味噌汁抹茶を今日も美味しく啜りながら、俺達は話していた。

 と、警報が鳴り、俺達は携帯端末でヒデから操艦室へ戻れと言われた。

 行くと、空気がピンと張り詰められていた。

「来たか。

 サリが現れた。まだ遠いが、監視カメラに引っかかってな」

 レーダーで捕捉できる限界くらいの遠くにいた。そして、時々止まったり蛇行したりしながら、フラフラしている。

「何してるんだ、こいつ。酔っ払いか?」

 明彦が眉を顰めた。

「もしかして、探してる?」

 真理が言った。

「何を?」

「えっと、八つ当たりの相手・・・つまり、ボクら」

「・・・」

 改めて、見る。

「・・・そう見えて来た」

 ユウが嫌そうに言った。

 それが、だんだんこちらに来る。

「あいつは空間眺望の能力らしいで」

 見つかる確率は、高いかも知れない。

「あ」

 イラついたのか、大型の大砲みたいな銃を撃つ。すると、前方にあった岩を貫通して、穴が開いた。

「・・・あの岩、何十メートルもあったよな」

「トンネル開通?トンネル工事にいいな」

 冗談を言いながらも、嫌な予感は止まらない。

「見つかったらやばいよな、砌」

「ああ。この基地に、一瞬でトンネルが開通するぞ」

「という事は・・・」

「ほぼ全員死ぬな。特に民間区画は」

 隊長はラドさんと顔を見合わせた。

「見つかる前に、出ましょう」

「そうするしかありませんね。いずれ、見付かる」

 あすかは、こっそりと基地を出るとこになった。


 静かに、素早く基地を出て、大回りをしてサリの索敵範囲に接近する。

「お、見つけたみたいだぞ」

 サリが追って来るのを、全速力で逃げる。

『凄い威力のレーザーだな!!』

「かすめたらアウトですね」

 俺とヒデがパトロール中に見つかった感じで、逃げる。それを、後ろから追いかけて来ている。

「あれは多分、この先にあすかがいると気付いていますね」

『なら、追って来るな』

「心配はいりませんね」

 デブリ帯に突っ込み、高速で避けながら逃げる。

 その向こうに、あすかがいる。

『見つけた。死ね』

 足を止めて、サリが銃を構え、撃つ。

 強いレーザー光線が、真っすぐにあすかに向かって走った。

 それが急にスピードを緩め、拡散し、弱くなったレーザーは、あすかの船体にコーティングされた吸収剤によって吸収され、エネルギーに変換される。

「いよっし!!」

 操艦室でドキドキしながらその時を待っていた皆は、知らず、ガッツポーズをしていた。

『何で!?』

 驚愕して棒のように動きを止めたサリの機体を、デブリの中でエンジンを止めて待っていたユウと真理が2方向から狙撃し、反転したヒデと俺が、両手を奪って抵抗を封じる。そして、タカと明彦が近付いて来て、完全にサリの機体を拘束し、俺達は、あすかに戻った。

 降りた俺を、コクピットから降ろされて拘束されたサリが睨む。

「何でだ・・・」

「レーザーってのは、要するに、真っすぐに進むようにまとめられた光だろ。空気と距離によってその威力は減衰される。真空でのみ効果が高まる兵器だ。

 俺とヒデがあそこで反撃のそぶりを見せた事と、あすかの爆発に巻き込まれない距離とを考えて、お前はあの辺りで止まる筈だと読んだ。だから、あそこからあすかまでの間に、空気の詰まった風船を置いたんだよ。レーザーをかく乱する金属片を混ぜて」

「そんなもの、見えなかったーー!」

「そりゃあ、デブリに紛れてたからな。空間眺望っていっても、全てを鮮明に捉えるわけじゃない。人の気配というか、意識で捉えてるだろ。だから、空気なんて、わかるわけがない」

 俺が種明かしをするのをサリは悔しそうに聞いていたが、ふと、周りの人間に訊いた。

「怖くなかったのか?空気を置いても、どのくらい減衰できるかわからないだろ?」

 それに答えたのは明彦だった。

「何で?砌が言ったから大丈夫に決まってるだろ?」

 明彦、決まってない。

「オレとタカのコーティングがあって、あすかもコーティングがある。大丈夫に決まってるだろ」

 わははは、と笑い出した。大物だな、お前。俺は怖かったぞ、もしダメだったら、と思うと・・・。

 震えを誤魔化す為に、俺はずっと、腕を組んでそばのカートに寄りかかっているというのに。

「まあ、そういうわけだ」

 サリは力なく俯いて、連行されて行った。

 俺は溜め息をついて、明彦に言った。

「度胸あるな」

「え?サンキュ!」

「あくまでも計算で、俺は、万が一を考えたら、もう、何でこんな事を言い出したんだろうと・・・」

「あはは!ばかだなあ。砌って意外と心配性だったか?」

「慎重はボクの担当だよねえ」

「慎重が真理か。明彦は?」

「突撃だぜ!」

「俺は?」

「中途半端!」

「でも頼れるリーダーだよねえ」

 俺達は、

「懐かしいな、そのフレーズ」

とか言いながら、更衣室に向かった。

 そして、改めて会談が再設定された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る