第36話 双頭の狂犬

 大破。ここまでやられたのは、何だかんだ言って初めてだ。

「それにしても、よく生きてたな」

 俺は自分の事ながら不思議に思いつつ、その戦闘を思い返していた。


 外れの基地を襲撃し、エネルギーの供給にダメージを与えるように仕掛けに行く中で、それと遭遇した。

「ノウラ兄妹、双頭の狂犬です」

 先行させている観測カメラの画像を見て、オペレーターが言う。

 2機のほとんど同じドールが、仲良く並んでいた。カメラを見付け、こちらを探しているらしい。

 と、生き残っていたこのカメラを見付けたらしく、片方がナイフを振りかぶって、そこで映像は途切れた。

「見つかるのは時間の問題だな。仕掛けが済むまで、ドールで惹き付けて時間を稼げ」

 その命令を実行すべく、俺達は出撃となった。

『双子の貴種の他は、普通のが30程だ。落ち着いていけ』

「はい」

 ヒデに返事をし、編隊を組んで接近する。

 ケルベロスにしては頭が1つ足りない犬のマークを描いた2機のドールが、向こうからも近付いて来る。

 すれ違いざまに、一斉射。お互いに躱し、反転。俺は同時にビットを射出。向こうも同じだった。

 が、片方が出したのはたくさんのナイフ。もう片方が出したのは丸い球。

 ナイフが、こちらを目掛けて飛んで来る。

「おわっ」

 避けたら、球が漂って来て接触する。そして、爆発。

「機雷か」

 避けるのも気を使う。

『キャハハハハ!!』

 甲高い笑い声が聞こえて来た。

『遊んであげる!』

『すぐには壊れないでね、詰まんないから』

 そして2機は、俺の周りをグルグルと回るように飛びながら、ナイフや機雷を投げつけて来る。

 ナイフを避けないとまずいが、避けたら機雷に当たる。

「ああ、もうっ」

 機雷に当たるのを前提に、とにかく包囲を抜け出す事にした。

 なるべく数の少ないルートを辿って、派手に爆発をまとって飛び出す。

 真理もユウも、こちらには来られない。ヒデも遠い。自分で何とかしないといけないようだ。高速でブンブンと周囲を飛び回る2機をかわしながら、飛んで来るナイフをビットで叩き落す。

 それでも対処に困るのは、地雷だ。

 ビットで迎撃すれば爆発するし、避け続けるには、数が多くて密度が高い。

 大きな損傷はないものの、少しずつ小さな損傷が増えて行く。

『ねえねえ、どうして家畜と一緒にいるの?』

『親とかも皆隷民なんでしょ?』

 うるさいな。蠅か、お前ら。

『ねえねえ。どうして?』

『ねえねえ。なんで?』

 2機はしつこくつきまとい、グルグルと周りを回って、3機で絡まり合うように飛び回る。

「しつこいなあ、もう!」

 加速し、隙を伺い、狙い、避け、爆破される。

 遅い!もっと早く!

『ぼくらとこんなに鬼ごっこが続いたやつ、初めてだね』

『生意気だね』

『まとめてやっちゃう?』

『そうだね。ちまちま狙って当たらないから、仕方ないもんね』

『仕方ない、仕方ない』

『どうせ一般人だろ。別にいいって』

 何をするつもりだ、こいつら。

 スピードを緩めた2機に警戒しながら、距離を取って構える。

 2機はダンスでも踊るように両手を合わせ、そして、2機の間から光の奔流が迸ったーー。


 半径数百メートル以上に扇形に巻き散らかされた爆弾は、敵も味方も区別なくズタズタにした。

 俺がとどめを刺されなかったのは、もう死んでいると思われたからだろうか。別動隊の仕掛けが上手く行って2機も呼び戻されて姿を消し、急に正規軍が減ったのも、彼らのこの攻撃が味方を盛大に巻き込んだせいだ。

 良かったのか、悪かったのか・・・。

「味方も巻き込んで平気って、恐ろしい奴らだな。流石、犯罪者と紙一重だ」

 溜め息をついて頬杖をつき、うっかり傷に触って手を離す。

「しかし、まあ、よく生きてたなあ」

 俺達は皆で戦闘データを検討していたのだが、ユウがしみじみと言った。

「今度またこの双子に会ったら、どうしたもんでしょうかねえ」

「必ず編隊で行動する事かな」

 ヒデが言う。

「それでもこの地雷みたいなやつ、範囲が広いし、逃げられへんのちゃうか」

 タカが言って、皆で考え込んだ。

「まあとにかく、無事で良かった。砌はフェアリーの大幅改造が済むまで、別の機体に乗っていてくれ。時間はそんなにかからずに仕上げるらしい」

「お急ぎ仕上げ?」

 明彦が心配そうに眉を寄せる。

「心配するな。急いでも手抜きは無い。却ってまるっと取り換えで、修理より早いらしい。それと、この機に、思い切ってフレイラの技術を組み込めると、いいテンションらしいぞ、氷川一尉と雨宮一尉」

「・・・ああ、目に浮かぶような・・・」

 全員、心配そうな顔になった。

「まあ、がんばれ」

「え!?」

 不安しか感じなかった・・・。



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