第37話 混線

 フレイラ本星に意外と近い所にあるデブリの中にも、監視のためのカメラやセンサーが仕掛けてあるらしい。その1つのソーラーパネルが破損したので取り換えるのが、今回の任務だ。

 ばれないように、そうっと、こっそりとだ。

 そこそこの所までデブリに紛れて近付き、そこから宇宙遊泳だ。恐ろしいような、楽しいような。

 フェアリーが修理中なので、仕事が減った俺が、志願した。そちらのスタッフがフェアリーの改修に忙しいようなので、申し訳ないというのが半分だ。

 工具箱を下げて、ふわあっとそれに近付くーーとは言っても、かなりの距離だ。走れたら早いのに。

 無事に取り付いてそれを見ると、ソーラーパネルが割れていた。なので、パネルを外し、新しいパネルと交換して、スイッチを入れる。

「もしもーし。砌です」

 ザザッと音がして、女の子の声がした。

『まあ!どこかとつながったわ!』

 誰だろう。革命軍の応答ではない。

 下を見る。フレイラのアマチュア無線家だろうか。

『ミギリさんと仰るのかしら』

 慌てて、技術スタッフのムーロさんが相手をする。

「え?ええっと、はい、まあ。あの、そちらは?」

『レイと呼んで下さる?』

 この喋り方、いいとこの子かな?

「レイさんね」

『兄もいますのよ。兄はアルですわ』

「アルさん」

 レイとアル。あれ?聞いた事があるセットだな。

『お兄様。どこかのミギリさんとつながりましてよ』

『へえ。上手くいったな。こんにちは。アルです』

「あ、どうも。ミギリです。お2人は学生さんですか」

『ええっと、まあ・・・。

 ミギリさんもそうですか』

「そうですよ」

『無線を組み立ててみたんだけど、こんなに上手く行くなんてなあ』

 切り上げるタイミングを掴めないまま、俺達はこの兄妹と話を続けた。俺は時々ムーロさんに返事を囁きかけ、それをムーロさんがフレイラの言葉で喋るのだ。

『今何をしてらしたの?』

 修理ですけど。

「星を見ていました」

 嘘でもない。

『では、カテリオの方かしら。この前はエネルギー供給ラインが途切れて大変だったでしょう。ああ、今も復旧はまだなのね。ごめんなさい』

「いえ、そんな」

『争いなんて、やめればいいのに。そう思わない?』

『レイ』

『だって、ばからしいわ。昔みたいに戦ってるわけでもないんだから、皆平等でいいじゃない。戦いが得意な人も勉強が得意な人もいていい筈。ましてや地球人なんて、もう完全に別の星の人だわ』

 ほお。

『それは・・・王が決める事だし、遺伝子尊重はフレイラの伝統だよ。

 それに、いきなり平等にと言っても、実質的には新しい格差ができるだけだ。なら、今の方がまだましだろう』

「まし」

『ああ。食料も住居も仕事も、能力にあったものを、均等な給料を与えられている』

「それは、一般人の話ですよね」

『・・・ミギリさん、君・・・』

「ああ、すいません。ちょっと議論を吹っかけてみただけです。聞きかじったばかりで」

『あら。私はその意見に賛成でしてよ。隷民を国民に入れていないじゃない、いつも。おかしいわ』

 訊いてみようか。

「本当の所、どうなんでしょうねえ。このままずっと、遺伝子で人の価値を決めるやり方で行くのかな。貴種も減っていってる現状とか、どうなんでしょうねえ」

 しばらく無言が続いた。

『わたしは、波風を立てずに、このままがいいと思う』

『お兄様。私は、変革を求めますわ』

『急な変革は、混乱しか招かない』

『あら。ではいつ変革を?この戦争をやめる時、それがいいタイミングではないかしら』

 兄妹が睨み合っているのが目に浮かぶ。

『はあ。レイ、そろそろ時間だ。先生がいらっしゃる時間だ。それにミギリさんも、もう遅い』

「はい。では、おやすみなさい」

『おやすみ』

 無線を切ったらしい音がして、俺はもう一度足元のフレイラ本星を見た。

「使えるかな、これ」

 俺達ははやる気持ちを押さえつつ、小型機に向かった。


 革命軍でもこのやり取りを傍受していて、上の方が寄り集まって会議をしていた。

 レイ王女とアル王子で間違いないらしい。そして、レイ王女を王位につければ、こちらに都合がいい。そういう話し合いだろう。

「いやあ、面白い事になったなあ」

「終戦が見えて来たのか?」

「そこまでは、まだだよう」

 イチゴ味噌汁抹茶を飲みながら、俺達も話していた。

「取り敢えずは、あの双子だろ。どうせまた来る。適当に出て相手しとかないと、虱潰しに探し回って、この基地がばれたらやばい」

「ああ、ありそうだねえ」

「作戦、決まったのか、砌」

「いや・・・」

 俺は、深々と溜め息をついた。


 フェアリーの改修が終わった。

 見かけはそこまで変わっていないが、やはり色々と違う。地球とフレイラのハイブリットというやつだ。

「この前はごめんな。今度はあんなにやられないように、気を付けるからな」

 フェアリーに申し訳なくて、謝ってしまう。全てに神が宿ると考える日本人としては、そうおかしくもないと思うし、周りにも普通にいたが、フレイラ人にはおかしい事なのか、微笑ましい物を見るような目で見られた。

「砌、何やってるんだ?」

 ドエルが訊いて来たので、教えてやる。

「万物に魂が宿るんだぞ」

「魂が・・・え、呪術兵器か!?」

 腰が引けている。

 面白いのでそうだと言っておこうかとも思ったが、それはそれで問題が起こりそうな気がする。

「そういう意味じゃなくてだな、ええっと、そのくらい大事に何でも扱って、全てに感謝しろという考えだ」

 たぶん。

「ふうん」

「大事に扱え。お前らの命を預ける相棒だからな」

 氷川さんと雨宮さんが、背後に現れた。

「はい。ありがとうございました。

 お疲れみたいですね」

「ふはは。徹夜の3日くらいどうって事は無い」

「楽しかった」

「まだまだやれそうな気がする」

「気のせいです。休んで下さい」

 2人はゾンビのような足取りで、笑いながら去って行った。

「急いでしてくれたんだな、皆。ありがたい。

 いやあ。ますます、負けられないな。あの狂犬コンビ」

 作戦が頭の中で、形になりつつあった。


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