第35話 その男、再び

 手を加え、大胆に改修を行った機体は、色々と変わっていた。スピード、バランス、フォルム。基本設計をした兄が見たら、ヘソを曲げるんじゃないだろうか。

 シミュレーターで改修した機体に慣れるための模擬戦を繰り返し、自分なりのコツ、相棒のクセを見付け、真理や明彦との連携の新しいタイミングを構築し直す。

 ヘトヘトになってシミュレーターから出ると、ミーティングをし、また試す。

「なかなかハードだなぁ」

「課題にまで手が回らないぜ」

「確かに。そんな余裕はないな」

 例のイチゴ味噌汁抹茶を飲みながら、一息つく。

 真理も明彦も、思った通り初めてこれを見た時は一瞬固まり、それから警戒しながら匂いを嗅ぎ、舌の先でほんの少し舐め、

「本当に抹茶!」

と叫んだ。

 それから、俺達は3人共これが気に入って、よく飲んでいる。まあ、コーヒーのような扱いらしい。

 俺達が飲むのを見て他の乗員がこれを試飲してやはり気に入り、今では、あすかの中で、昔からずっとあるかのような馴染み具合だった。

「しかし、機動力を上げたヒデ達、無敵じゃねえ?」

「勝てるだろ、この前の家畜を連発した失礼なやつに」

「鬼に金棒だよねぇ」

 ヒデ達3人も改修した機体に慣れるべく訓練中だが、模擬戦をやると、本当に強い。

「鬼の鬼種だな」

「わははは!」

 冗談を言っていると、サイレンが鳴る。

「お出ましか」

 俺達は席を立って、待機室に行った。

 全パイロットを3つに分け、待機室でのアラート待機、訓練などをしながらの待機、実戦或いは待機時間終了後の休憩兼訓練をローテーションしている。

 今からあすかは、待機室での待機に1つ繰り上がる。今出て行くのは、ルナリアンと革命軍の混合チームだ。

 ヒデ達と一緒に、モニターを見る。

「あの失礼な奴、いないな」

 確か名前はジャン・ルスとかいったはずだが、『家畜の人』とか『失礼なやつ』等で通じている。

「ドエルもなかなかやな」

 タカがポツリと言う。

 ドエルのドールはブレードをメインウェポンにした接近戦タイプで、攻守のバランスもいい。

「でも、攻撃が大振りだな」

 ユウが、狙撃のタイミングを数えるように言った。

「フレイラ正規軍は、貴種さえ出て来なければ、まあ、何とかなるだろうが、やっぱり問題は貴種だな」

 ヒデが言うのに、皆、頷く。

「それだなあ」

「貴種だけを引き剥がして、狙撃やろ」

「空間眺望や予見視だとそれも厳しいんじゃないか」

「とは言え、攻撃を予測しても逃げられないくらいに集中攻撃を浴びせるくらいしか、今の所、対抗手段はないだろう?」

「それも、部下とかがいたら、簡単にはさせてもらえないでしょうしね」

 6人で額を寄せ合い、何とかならないものかと頭を悩ませる。

 しかし、いい知恵も浮かばないまま、モニターを眺め続けた。

 しばらくして、連絡が入る。

『補給と休憩の為、隊を入れ替えます。あすか飛行隊、出撃して下さい』

「さあ、行くか」

 各々立ち上がり、相棒のコクピットに収まる。

『とにかく、バラバラになるな』

 ヒデの注意を受けて、順に出て行った。


 戦場に入って行き、ルナリアンと交代する。いくらドールの稼働限界が延びても、人間の稼働限界が延びるわけではない。集中力や疲労の蓄積は同じだ。

 正規軍と、数の上では似たり寄ったりだろうか。

 そして正規軍のパイロットの技量は、決して低くは無い。

 俺と真理と明彦は、俺と明彦が誘い出して釣っては真理が狙撃というパターンで、着実にフレイラ正規軍の数を減らしていく。

 と、それが急接近して来た。

『見つけたぞお!!』

「あ、失礼な家畜野郎だ」

 ビットを嬉々として飛ばしながら、こちらに接近して来る。

「距離、とるから」

『おう!気を付けろよ!』

 すうっと頭の後ろ斜め上に意識が抜ける感覚と共に、フェアリーを下方向に逃がしつつビットを向ける。

『この前は無粋な邪魔が入った。今日はとことんやり合おうではないか!』

「律儀だなあ」

 一見のんびりとしたやりとりだが、高速で戦場を縫うように移動しながら、ビットを撃ち合っている。

 高笑いを響かせながら追いかけて来るジャン・ルスが、もの凄い変態みたいだ。変態に追いかけまわされる女の子の嫌悪感とストレスとは、こういうものなんだろうか。

 急角度で止まって曲がり、ブレードでの接近戦も混ぜてみる。

 が、こいつもただの変態ではない。離れてはくっつき、また離れ、移動。

「ここらかな」

 半壊したフレイラのドールの前で、上へターン。高速でバックしながら、ライフルとビットを向ける。

『ははは!無駄、無駄、無駄ァ!

 何!?』

 追って来たルスの高笑いがギョッとしたように途切れるのと、2方向からの狙撃が同時に襲い掛かるのは、同時だった。

「うちのスナイパーは、どちらも優秀なんだよ」

 ユウと真理が、各々の位置から狙撃したのである。とどめに、タカと明彦が半壊したフレイラ機の陰から電磁ネットを投げかけて、ルスのドールの腕と足を賽の目に刻む。

 恐ろしい兵器だ。

『ぐあああ!しかし!』

 ビットを俺達3方向に振り向けるーーが、俺とヒデがそれを片っ端から撃ち落とす。

『き、貴様らァ!!』

 逆上し、そのままどうする気か知らないが俺の方へ突っ込んで来る。

 攻撃手段も無い筈だが、どうする気だろうか?

『お前もあの世へ道連れにしてやる!』

「体当たりしての自爆!?」

 当然、逃げた。

 そしてルスは、1人で爆散した。

「うわあ・・・」

『まだ敵だらけだぞ、油断するな!』

 ヒデが言い、サッと俺達は散って新たな目標を狙い始めた。


 程なくフレイラ正規軍に撤退の合図があったらしく、一方向に下がり始める。それを包囲するような位置取りで適当な所まで追いながら、こちらも退く。

 そして、帰艦の命令に従って、あすかに戻った。

 あすかが本拠地に戻ると、革命軍の皆は興奮していた。

「貴種をやったぞ!」

「大したものだな!」

 今まで、やられっぱなしだったようだ。

「作戦を立てて、皆でやったから。連携は日本のお家芸というか・・・」

 困惑半分な俺達だったが、ヒデがそっと小声で言った。

「こりゃあ、今後はかなり期待されるぞ」

 俺達は内心で、溜め息をつきたくなった。



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