第3話 大脱走と初陣
少しおいて、真理と明彦が体を揺すって来る。
「え?何?」
「ゲッ!息してないぞ!」
「本当だったのか、奥歯に毒薬を仕込まれてるって話!」
真理と明彦が騒ぎ、ルナリアン2人も慌てて、鍵を開けて牢に入って来る。
「どいて!」
俺に取り付く2人に真理と明彦は場所を空け、そして背後から一気に2人の首を絞め落とす。
これはこの前の授業でやったばかりだ。そして、俺は暴れようとする2人の前に立ち、ちょいと加勢する。
「おお、気絶したぞ」
「良かったよぉ、できて」
「奥歯に毒って、スパイか」
俺達は言いながら、上役のデバイスを拝借した。真理が難なくそれを操って、艦のこちらからは遠い方で異常を次々と起こし、ほとんどの人間がそちらへ行くようにと誘導したのだ。トイレが溢れ、水道管は破裂し、外壁が吹き飛び、空気が漏れる。
気の毒なくらいの事故だ。
でもこれは、ダメージコントロールの演習でやらされた事だ。さぞやプロの方々は華麗に終息させるに違いないとは思うが、見物している暇もなければ、その気もない。
俺達は混乱に乗じて牢を出、格納庫へ向かった。
混乱の極みで、俺達を見咎めるやつもいない。上手くすり抜けて、並んだ機体に取り付く。
「おい、大丈夫か」
「操縦系統そのものは変わらないだろ、多分」
「折角だ。カッコいいこいつにしようぜ」
俺達は、汎用戦闘ドールのコクピットに入り込んだ。
まずコンソールを一通り眺めてみる。確かに、やり方は想像の範疇だ。次にエンジンに点火。
「おお、かかったぞ」
次々と、勘も働かせて発進準備を進める。何人かこちらを指さしているが、俺が手近にあった補修剤を掴んだことで、「応急処置の為に出るんだな」と思ったらしい。
俺達は、悠々と外に出た。
そして振り返ると、離発着口を手動で閉め、その上から補修剤をぶちまけた。念入りに、たっぷりと。
「おうおう。これは難儀するぜ」
面白そうに明彦が言う。
「これで多少は時間が稼げるだろうね」
真理が笑って、明彦と一緒に艦のミサイル発射口やレーダーにも補修剤をかけて回る。
「何をしている!こら!」
慌てて怒鳴りたてる通信士からの通信を切り、
「さて、のんびりもしていられない。行くぞ」
と、補修剤をかけまくって遊ぶ真理と明彦を促し、離脱を図った。
やはりプロは優秀だ。あれだけの邪魔をして来たのに、もう追って来た。内側から補修剤をフッ飛ばして出撃して来たのか?引火を恐れなかったのかな。可燃物だらけだぞ。レーザーで焼き切ったのかな。
何しろ、遺伝子を弄って戦闘機動時の高Gに耐えうる肉体を作り上げ、地球人なら耐えられそうにない負担をパイロットに強いるような機体を使用するルナリアンだ。こちらが機体の限界まで引き出せずにのたのた逃げ出すのに、後からでも悠々と追い付いて来られるとは思っていた。
漂うようにゆっくりと進み、ジタバタと振り返って見せる。
と、追って来た3機の同型機は、ビームライフルを向けながらこちらに接近してきた。
『抵抗はするな』
「ぎぼぢわるい・・・吐く・・・」
明彦が呻くように言い、
「大丈夫か、真理、返事しろ、おい」
と、こちらもやっと声が出るという感じで言う。
追手はライフルを下ろしてもっと近付くと、
『ルナリアン用の機体だぞ。ヘタしたら死ぬぞ、バカだなあ。
あれ。1機足りないな』
と言いながら、手を引くように、掴んで来る。
「止まれなくて、岩に激突して返事もなくなった」
少し離れたところにあるデブリ帯に、主電源だけになった1機が漂う。
『回収に来ないとな』
彼らがそちらに顔を向けて言うのと同時に、俺と明彦は自分を掴んでいる1機の動力部にビームナイフを突き立てて破壊した。そしてその騒ぎにこちらを向くもう1機には、デブリに漂っていた真理からの狙撃が命中し、爆散して、コクピットが非常脱出カプセルとして吐き出された。
「いよっし!成功だぜ!」
「さあ、とっとと離脱するぞ」
「追加が来たら困るもんねぇ」
俺達は、本気で逃げにかかった。
一応、ライフルは頂いておいた。
地球軍の勢力圏内に入ってしばらくした頃、通信で現状を報告して、万が一にも撃墜されないようにして基地に向かっていたら、SOSをキャッチした。
「ん?何だ。民間のシャトルだな」
人員を運ぶための乗り合いバス的なもので、武装などはない。
「何か後ろに・・・ゲッ!ノリブ!?こんな所まで!?」
人類の天敵ともいえる宇宙生物、ノリブ。生態など一切が謎で、人類を攻撃して来るということしかわかっていないと言ってもいいくらいだ。
「どうしよう」
「助けるに決まってんだろ!」
「どうやってだ」
「それは・・・根性で何とか!」
「昭和のスポ根か」
ノリブから全速力で必死に逃げて来たのだろう。武器が何も無いシャトルに、例え10体程度であっても、ノリブは脅威だ。絶望的と言っていい。
「ノリブの動きは、それこそ変則的だ。スピードに乗ったまま、いきなり急角度で曲がったりな。Gに異様に強いから、コンピュータの狙撃予測は当てにならない。それなのに、こちらの武器は有限だ」
「そんな事言っても、民間人を放って置けるのかよ!」
「誰もそんな事は言ってない。頭を使え」
「砌、頼りにしてるよ」
俺は辺りを見廻した。利用できそうなものは無いか、と。
放棄された衛星がある。坑道が開いて、向こうまで貫通している。この衛星は昔、訓練に使っていたものらしいが、前線の移動と共に放棄されたらしい。
「ここをシャトルに全速で抜けさせよう。追って来たノリブは、1列縦隊で飛び出してくるからな。それならこちらも仕留めやすい」
「おお、成程!」
俺達は早速シャトルに通信を入れ、訳あってこんな機体だが地球の日本自衛軍学兵だと告げ、作戦を説明した。
「では、よろしくお願いします」
船長はノリブを引き連れながら、シャトルを大きさギリギリの坑道に突っ込んだ。
俺達は出口で待ち構える。
「来たよ!」
シャトルが飛び出す。
その後を追って、ノリブが飛び出してくる。それを、3人で順番にひたすら狙って当てる。出て来る場所がそこだとわかっているから、あとはタイミングだけだ。それも、センサーで確認しているので、面白いほど当たる。
その油断があったのか、1匹だけが坑道に入らなかった。
「何やってんだよ、変わり者か!」
衛星の周囲を回ってこちらに来るそのノリブを、待ち構える。
「うわあ、早すぎて狙えないよぉ」
真理が悲鳴を上げた。
ジグザグに、無軌道に飛んで来るそれは、仲間を全滅させた俺達を許さないつもりなのか、俺達に襲い掛かって来る。
「ぎゃああ!」
見当違いの方角に弾をばらまいた明彦は、ナイフを構えて突っ込んだが、そのまま通り過ぎたので慌てて戻って来ようとして、ジタバタしている。
突っ込んで来るノリブを避ける。
機体の反応がいつもと違い、違和感がある。反応速度が速い。
いや、むしろ、この方がいい?
ノリブに銃口を向ける。レティクルの中でノリブが細かく動き、一気に外へ消える。それを追い、中央に捕えようとする。
そうしている間にもノリブは酸液を吐きかけ、ナイフのような爪で切りかかり、牙を突き立てようとしてくる。それをかわし、攻撃に転じる隙を伺うのだ。
何度も場所を入れ替え、くるくると360度向きを変え、近付いては離れ、離れては近付く。
そのうち、ライフルがノリブの片足を吹っ飛ばした。怒ったノリブが口を開けて突っ込んで来る。その口に、ライフルの銃身を突っ込んで、引き金を引く。
ノリブはビクビクと痙攣するように体を跳ねさせ、体が膨らんだ、と思ったら爆散した。
「やったか?」
「もういないよぉ」
「やったぜ!」
シートにグッタリともたれたところで、軍からの迎えがやって来た。
「遅いよ・・・」
ああ。疲れた。
こうして俺達は、無事に基地に戻れたのだった。とりあえずは・・・。
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