第4章 (9)協 議 Part②

 その日の午後。久しぶりに全員で、ミーティング用の円卓を囲んだ。もちろんレッドファルコム号で作業中だったフォレスト夫妻にも同席してもらった。


「急に集まってもらったのは、重大な話し合いをしたい。今後のことで……」

 ジーンは、挨拶や前置きもなく口火を切った。


「ジーニアウス。今後のことだったら、先に話がある」

 真向かいに座るサームが、いきなり口を挿んだ。


「慌ててどうした? サーム」

「いや、慌ててる訳じゃない。久々の召集なんで、報告したい優先重要事項・・・・・・がある」


「何? 優先重要事項・・・・・・だあ?」

「そうだ! 早い方がいいんだ」

「分かった。何の事だ?」

 ジーンが了承すると、サームは神妙な面持ちで話を始めた。


「実は、太陽観測をしていたら、太陽活動が、もうすぐ極大期に入ることが分かった。多少誤差はあるが、あと半年後だ。このままこの惑星に滞在するのは、危険が大きい」

「何? 太陽活動が極大期だと?」

 隣席のスティーヴ博士がサームを凝視した。


「はい。以前から気になっていた事で、内惑星で起こった探査船事故のデータを集めていたら、太陽活動の周期が偶然判りました」

「それは、百年前に頻発したという、惑星探査船の事故のことかね?」

 スティーヴ博士の問い掛けで、サームの説明に熱が入った。


「そうです。その探査船事故は、ある時期に集中して発生しました。それが百年前に起こった事故です。それ以来、内惑星宇宙域は飛行禁止区域に」

「その事故が、なぜ太陽活動と関連が?」


「太陽活動の異変が、探査船事故を引き起こした可能性が高いんです。例えば、ソーラーストームが、探査船の電子回路を破壊するとか?」

「なるほど。強力な太陽風では、『プラズマの嵐が、物質を蒸発させ得る』と言うからな?」


「驚いたことに、事故の頻発時期が、太陽活動の極大期と、完全に一致したんです」

「ということは、オイラからの相談内容とも、一致だな?」

 ジーンはすかさず割って入った。


「何が一致なんだ? ジーニアウス」

「実は、オイラが、話し合いたかったことは、今後の動向だ。もう意見を訊くまでもない。太陽のせいなら、もう此処には居られない。あと半年なんて? ……直ぐに行動を起こそう」


「一致とは、そう言うことか。ジーニアウスの言う通りだが。……でも、どこへ、どうする?」

 サームは、眉をひそめながら執拗に答えを求めた。


「待ってくれサーム。それをこれから話し合いたいんだ」

「それなら、南極へでも、移動するの?」

 いきなりビーオが口を挿んだ。


「いやー、それは殺生やでぇ」

 ローンも議論に緊急参入だ。

「極地方は絶対ダメだ。ローンの言う通りだ」

 ジーンは理由を訊くまでもなく、ローンの意見に賛同した。ローンから極地方の厳しさについては、以前からよく聞かされていたからだ。


「それじゃー、他の惑星でも、探すしかないね?」

 ビーオが口を尖らせた。

「ジーンの夢に出てきた惑星、本当にあるといいね?」

 ビーオの言葉を受けて、ミカリーナがつづいた。


「何、夢ですってぇ? キャプテン、また見たの?」

 無言だったアーンが口を開いた。


「うん、今朝ちょっと。あんな不思議な夢、久しぶりだよ」

「キャプテンの夢って! 予知力あるから。もしかして?」

 アーンは軽く拍子を打った。


「そういえば、例の夢の話、聞かせて?」

 俟ちかねたようにミカリーナが口を挿んだ。

 ジーンは、これは好機と思い、今朝見た不思議な夢のことを、皆の前で話し始めた。


 ジーンの話が終わると、真っ先に反応したのはスティーヴ博士だった。

「ジーン。その惑星のことだけど。吾輩は、以前に、君に話したこと、あるかね?」

 博士は目を丸くし、とても驚いた形相だ。

「いいえ、ないと思います。知らない惑星で、自分でも不思議でした」


 スティーヴ博士は銀河探検で、生命が生存可能な惑星を持つ恒星系を幾つか発見していた。夢の内容に強く惹かれたようで、次々と具体的な質問をしてきた。


「ところで。その惑星には、二つの衛星があったというが、同じ大きさだったか?」

「いや、大小二つの衛星が隣り合って。銀河の渦もよく見えて、とても綺麗でした」

「銀河の渦もか?……では、恒星は幾つあった?」

「恒星ですか? それなら、確か二つです。双子の夕陽が沈みましたから」

「なるほど、きっとそこだ。君は、また予知夢を見たに違いない」

「やはりそうですかねぇ?」

 ジーンの応答はそっけなかった。何故なら、今回の夢ときたら、その光景はリアルだが、余りにも現実離れしていたからだ。


「実は、ジーンの夢と一致する太陽系が、銀河探検で見つかっている。銀河中心方向にあった恒星系で、太陽は双子の連星、多数の惑星を抱える。その中に棲める星がある」

 スティーヴ博士から、正に夢のような提案が飛び出した。


「博士、それ、本当ですか? あれは、やはり、予知夢だったのかぁ?」

「その通りだ、ジーン。是非その太陽系を目指してみよう」

「はい! 博士。是非とも」

 ジーンは直ぐに賛成票を投じた。


「博士、賛成! とっても楽しみです。ELSアナライザーで、早速確かめに!」

 すかさずビーオが、興奮気味につづいた。

 ビーオが興奮する訳は、博士と惑星の生物調査に、いつの日か一緒に出かける約束をしており、早期の実現が叶いそうだからだ。


 クルー達は、皆驚きの表情で頷いた。スティーヴ博士の夢の提案に、船内の空気は期待と希望の渦で満たされた。


     * * *


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