第4章 ★ 創世の星
第4章 (1)探 索 Part①
■◇■〔航行日誌〕惑星暦3039年145日 ログイン ⇒
人類の種の保存という使命を遂行するために、いよいよ試行錯誤が始まった。
新惑星の環境下で、ヒトのDNAを存続させる方法を発見することが、最大の課題である。研究の中心人物は、オイラ自慢の弟ビーオニアウスだ。今さら言うまでもないが、彼は若き天才生物学者。遺伝子工学の分野にも研究熱心な彼の意欲と才能に期待したい。
更には、信頼できるアドバイザーとして、生命工学の第一人者であるDr.Alanの存在がある。博士は心強い味方となるに違いない。
===以上、ログアウト □◆□
新惑星に来て十五回目の朝陽を拝んだ直後のことだった。スペースフォンのバイブが震えた。予感通り着信はビーオからだった。重要な相談があるのでSCIルームへ来て欲しいとのメッセージだ。ジーンは足早に象牙の塔に向かった。
REXルームの奥にある重厚な扉を開けると、そこはSCIルームだ。象牙の塔にはただ独りビーオがいた。
ビーオは、腕を組んで実験テーブルに両肘をつき、早く聞いてくれと言わんばかりに目をキラキラさせていた。
「急に何だ。ビーオ」
ジーンが声をかけるや否や、ビーオは説明を始めた。
「兄貴。生物調査のデータから、最適なサンプル候補が見つかった。アラン博士に相談した時、閃いてはいたんだが。なかなか決め手が見つからず、今やっと、その方法が」
「見つかったか! それはでかしたな。どんな生物だい?」
「生物調査で出逢った、あの類人猿だよ」
この答えはある程度予測できていたので、ジーンは少し不安を覚えた。
「あれは、かなり知能が高かったが、大丈夫なのか? 高等生物を、検体に使ったりして?」
ジーンは、念のためにビーオの考えを確かめた。
「兄貴。その知能が高いからこそ、最適なんだ!」
ビーオは、腕を組み替え自信たっぷりに答えた。
「しかし、高等生物の命を犠牲にするなんて、ノアーの教えに反するぞ」
「兄貴、待ってくれよ! 最初から命を奪うなんて、決め付けないでよ!」
「だってぇ? 生物実験ってのは、犠牲がつきものだろう。モルモットみたいに?」
「それ、時代遅れな生物学の話さ。ボクがやろうとしているのは、生体実験じゃない」
ビーオは、眉をひそめ口を尖らせて訴えた。
「なに? 生体実験じゃー、ない?」
「もちろん。僅かなDNAサンプルは必要で、それさえ手に入ればできるんだ」
「うーん、DNAサンプルねぇ?」
不安に駆られていたジーンの心の霧に、少し晴れ間が見えた。
「例えば、あの類人猿の皮膚の細胞とか、一滴の血液とか、それだけあれば十分だ」
「そのDNA検査のことは、オレにも分かるが」
「因みに、ジーンから髪の毛一本でも貰えれば、ジーンの遺伝子情報が分かる」
「それくらい知ってるさ。毛根ごと必要だったよな?」
「その通り、よく知ってるじゃないかぁ? 兄貴ぃ。試しに一本いいかい?・・・・・・」
ビーオが、いきなりジーンに迫った。
「イッテテッテェー。急に何すんだよ!」
ビーオは、ジーンの髪の毛を引っ張った。
「大袈裟だな? 兄貴」
「だって、痛いもんは痛いんだから。オッコルゼ、ビーオ」
「ゴメン! でも最悪でこの程度。実際は殆んど痛みなど与えないで、採取できる」
「オイ、チョットォ? ひどいぞぉ! 最悪を、オイラで試したのかぁ?」
声を押し殺して苦笑いのビーオは、後退りに逃げた。
ビーオは実験の方向性を簡単に説明した。対象となる生物から採取した細胞の染色体を取り出し、DNAを調べて生物のゲノムを解析する。
ゲノムとは全遺伝情報のことで、タンパク質を作り出す情報を持つのが遺伝子だ。この遺伝子が生物の特徴を形づくるタンパク質をつくり、まさに生命の設計図となる。最終的に遺伝子レベルの問題となる。
まず、人類のヒトゲノムと対象生物のゲノムを比較し相違点を洗い出す。相違点の多少からDNAの異種間融合の可能性を検討する。
ゲノムの相違点が1.0%未満の場合は、直ちに実験可能。1.0%を超えると、DNAの融合は困難となる。これは一種の賭けで、もし駄目なら他の生物を模索することになり、膨大な時間と手間が必要となる。
以上のことを、ビーオは簡単に説明したと言うが、ジーンにとって生物学の分野は、なかなか難解だった。簡単に言ってしまえば、人類に一番近い生き物を探すことだと理解した。
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