第3章 (16)再 会 Part②
翌朝。朝寝坊の常習犯は珍しく目覚めが早かった。早朝のOPEルームでは、当番のアーンが独り、任務についていた。
ジーンは、欠伸をかみ殺しながら声を掛けた。
「オ・ハ・ヨウ! アーン。こんな早くから、ご苦労さま」
「おはようさん。キャプテン」
振り向いたアーンは、とてもにこやかだ。
朝陽もすっかり昇り、外の景色はいつもの眩しさが広がっていた。クルー達は、次々とポジションに就き、いつもの一日が始まった。
ジーンは、ミカリーナと一緒に浜辺をゆっくり歩き始めた。今日の海は普段よりも穏やかで、Deep Blueの大海原が果てしなく続いている。
そんな水平線を見渡していると、動物の頭のようなものが遠めに見えてきた。
「チョット! あれ何かしら?……」
異変に気付いたミカリーナが指差した。
「……ほら? 水平線の向こうに見える赤いもの」
「あれぇ? 何だろうねぇ? 遠すぎて分からないなぁ? 海洋生物の一種かな?」
ジーンは、真っ赤なあれが何物か予想できた。だが、わざととぼけてミカリーナに同調してみせた。
そこへ、血相をかいて船から飛び出してきたのは、あの冷静沈着なサームだった。
「大変だ! 大変だ、ジーン。(ハッハッハー)」
息を切らしたサームは言葉にならない。
「どうしたんだ? サーム」
「サームが慌てるなんて珍しいわ、一体何が起こったの?」
「ジーニアウス。ミーカ。落ち着いて聞いてくれ!(ハッハッハッ)」
「ちょっとぅ、落ち着かなきゃいけないのは、アナタでしょー」
サームの後を追ってきたアーンが、サームを
「そうだな(フゥフゥフー)。今、レーダーに、正体不明の機影が、機影が」
「サーム。レーダーの機影って。……アレのことか?」
ジーンは水平線を指さした。慌てるサームとは対照的に冷静だ。
「そっ、そうだ! アレだ……」
目を向けたサームは、ポカンと口を開けた。
それは徐々に大きさを増しており、近づいているのが分かった。
直ぐに全員が駆け寄ってきた。クルー達が目撃したものは、海上に浮かんだ眩い真紅の船体だった。
真紅の船は、海面からふわりと宙に浮いた。僅かな高度を保ちながら滑るように浜辺に向かって来る。新惑星の強大な重力など無視するかのように、極めて滑らかな動きだ。これぞ反重力宇宙船ならではの醍醐味である。
真紅の宇宙船は海岸に上陸を果たすと、シルバーファルコム号のすぐ隣にピタリと停止した。赤と銀の二機の宇宙船は、そっくりなフォルムで肩を並べた。
『双頭の龍』を思わせるその雄姿は、まさに圧巻。二頭の宇宙ファルコンの揃い踏みである。
そして、離れ離れになっていた双子が、ようやく出逢えたような感動さえ覚える。
「シュイーン」という金属的なマシーン音が消えると、間もなくハッチが開いた。
中からは二つの人影がゆっくりと現れた。
強い陽射しを受けて、キラキラと眩い二つのスペース・スーツが近づいてきた。
ジーン達は、一列横隊に整列して出迎えた。
「お帰りなさい。スティーヴ博士。ご無事で何よりです。ユーンさん」
ジーンは、感激の余りに言葉も見つからず、月並みな挨拶になってしまった。
ジーンの挨拶をかわきりに、クルー達は次々に言葉を掛けていった。
先ずサームが、次にミカリーナ、アーン、ビーオ、さらにローンが続いた。クルー達は、胸が一杯の様子で掛ける言葉は短いが、堅い握手を交わした。
「Dr. Forest、またお会いできて、夢のようです……」
「お二人ともお元気そうで、何よりです……」
「超フォトン通信、確かに受け取りました……」
「またお会いできて、本当に嬉しいです……」
「ようこそ、水の星へ……」
ウィーナは、握手をしながら笑顔による挨拶だ。
そして最後に、アラン博士が加わった。
「ご無事で何より、フォレスト教授。大変ご無沙汰でしたね」
博士夫妻は、感無量の様子で、言葉よりも堅い握手で次々に応えていた。
いよいよスティーヴ博士の挨拶とユーン夫人の言葉がつづいた。
「ありがとう、皆さん。こんなところで逢えるとは、実に幸運です」
「わたくしも嬉しいです。これは奇蹟の再会ですわ」
二人の言葉は何故か短かった。
ジーンは、二人の笑顔にかげりを感じていたが、その予感が的中した。
「ところで……、喜んでばかりいられない事がある」
再会の喜びに浸る暇もなく、スティーヴ博士は、眉をしかめて疑問を投げ掛けてきた。
「博士。何のことですか?」
「ジーン。分かっているだろう?……惑星アーロンの事だよ」
「えっ!……」ジーンの声は凍りついた。
最も恐れていた質問が、余りにも早過ぎるタイミングで、出て来てしまったからだ。
質問を続けるスティーヴ博士は、不安に駆られた表情に変わってきた。
「惑星の公転軌道にやっと戻ったというのに、肝心の惑星アーロンが見当たらない。代わりに微惑星がゴロゴロしていた。いったい何が?」
ジーンは、また言葉に詰まったが、避けては通れない命題に、なんとかその場を凌いだ。
「はっ、はい。とても短い言葉では伝えきれません。……それに長旅でお疲れでしょうから、船内でお休みください。そこでゆっくりお話しします」
「それもそうだ。ここは陽射しが強すぎて、長話しにはきつい。……どうだい? ユーン」
スティーヴ博士は、右手を額にかざしながらの返答だった。
「はいっ」ユーン夫人は俯きかげんに小さく返事をした。
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