第3章 (12)奇 蹟 Part③
今夜のディナーはいつにもまして格別の味だった。ローンが持てる技を
夕食後、アラン博士と少々語り合うことになった。ただし、博士の体調を考慮し大勢は避け、ジーンとサームが代表することにした。DINルームの後片付けを他のクルーに任せると、ジーン達三人は、MEETルームの南側、大きな窓の
横長の楕円窓の外を眺めると、まるで幻想の世界にいるようだ。
空から注ぐ薄明かりは、辺りの見慣れた樹木をモノトーンの不思議の世界に変えていた。薄明かりの元を
「あの衛星は、とても明るいね。ここは何処なんだい? ウィーナは、新惑星だとか」
「はい。その通りですが。……正確には、『
「なに? もしかして、兄弟星伝説の?」
博士は目をむき出した。
「はい、伝説の兄弟星の一つだと思います。ノアーの予言が示した惑星です」
すかさず隣のサームが説明を加えた。
すると博士は、ゆっくりと頷きながら微笑んだ。
「それは嬉しいなぁ! 宇宙旅行をして、いつかは伝説の星を、この目で見るのが、ワシの長年の夢だったのだよ」
「そうでしたか。宇宙旅行の夢のことは、ウィーナから聞いてました。……なっ、サーム」
「ええ、『父の夢を叶えてあげたい』と、いつも彼女は言ってましたよ」
サームは、面長の顔を少しばかり丸くした。
「そうかね? ウィーナがそんなことを」
博士は嬉しそうにはにかんだ。
「そうですとも、彼女の強い要望があったからこそ、宇宙船にお連れできたのです」
サームは、切れ長の
「ところで、ワシ等はどうしてこの星に? 危険を伴う内惑星は、禁断の宇宙域だったはず。よくぞ無事で来れたね?」
「それが……、古い時代の、その航行規則は誤りだったんですよ。色々経緯があるので、簡単には説明できませんが、無事にここに居ることが、その証しです」
サームは、長い説明を避けて簡潔に答えた。
「そうですか。君たちは勇敢な若者だね」
「いいえ、勇気というより、任務でしたから」
「任務とは、何だね? ジーニアウス君」
「はい。王様からの勅命です」
ジーンは胸に手を当てた。
「王様から?」
「はい。人類の血を残すため、水の星を目指せと」
「えっ、人類の血を残すとは? 惑星に何か?……」
アラン博士の顔から血の気が引いた。
「……まさか、戦争?」
「いえいえ、戦争では……。あんな独裁政治でも、ノアーの教えは、生きてました」
慌ててサームが割って入った。
「なるほど独裁か? サーム君の言う通りだ。新政府のやり方には、ワシも反対だった。……君たちの反政府運動には、勇気をもらったものだよ」
「ご存知でしたか? 博士」
「勿論さ、ジーニアウス君。君たちのTV中継を観て、人体実験を、決心したんだ」
「それは申し訳ないことでした。あのデモのせいで、結果的に博士を危険な目に……。しかも、デモは失敗に終わり。政府のやり方は、益々酷くなりました」
「あんな政府では、軍事行動に走るのも、時間の問題だったよ。戦争でなくて良かった」
ここでジーンは、話しを打ちきった。
惑星アーロンの悲劇については、何れ話さなければならない事実だが、病み上がりのアラン博士に伝えるのは
サームもそれを察して、話しを進めることはなかった。
「博士。惑星アーロンのことは、後日ゆっくり。今日のところは、お休みください」
「ありがとう。ジーニアウス君。強い陽射しに疲れた」
博士は、
「そうしてください、博士。直ぐに医療班を呼びますから」
「では、先に休ませてもらうよ。おやすみ、お二人さん」
「おやすみなさい。博士‼」
ジーンとサームは声を揃えた。
DINルームで控えていたビーオとウィーナが、直ぐにやって来た。念のために、病み上がりのアラン博士の診察を二人に依頼した。博士の脈拍と血圧は正常で、体温が少し高めだが問題のない範囲だった。体温が高いのは、蘇ったばかりの細胞が活性化している証しだと、博士も自己診断していた。
医療班の二人は、アラン博士の細長い腕を取り、ゆったりとした足取りでMEDルームへ向かった。
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