第2章 (6)終末へのカウントダウン、あと5日

Countdown, 5 days left

 未だかつて人類が経験したことのない想像を絶する危機が、間近に迫っていることを、ジーンたちは訴えた。チームSSSCは、以前の自由運動のときと同様、街頭で道行く人々に呼びかけた。


 しだいに人々の中には興味を示す者が現れ、問い合わせも増えてきた。

「その彗星は、いつごろやって来るの?」

「巨大彗星って、どのくらいデカイんだ?」

「その彗星に、名前をつけたの?」

「彗星の発見者は、あの変わり者、ハリーかい?」

「巨大彗星は、宇宙船で探検できるのかい?」

「彗星写真を撮りたいんだが、最適スポットは何処かな?」


 どれもこれも、危機感などとは程遠い反応ばかりであった。しかし、ジーンたちは諦めずに惑星の危機を訴えつづけた。


 そのころ、報道機関もようやく注目し始めた。街頭運動の様子をTVカメラが追いかけてきたのだ。放送車から飛び出したMCがマイクを向けてきた。

「こちらBCA放送です。ハリー博士の説ですね? カメラに向かって詳しくお話し頂けませんか? そちらのイケメンさんがリーダーのようです。……まずお名前を」


 ジーンはカメラに映るのは嫌だった。でもそこを我慢すれば、惑星の危機を多くの人に伝える絶好のチャンスだ。ギブ・アンド・テイクでいいと思い取材に応じた。


「はい、オイラは……。いや、自分が、チームキャプテンのシダーヒルです。えっ、あの、今起きている、一大危機を、これから話します。それは……」


「当局の独占インタビューにしますので、さあ、こちらでお願いします」

 TVキャスターは素早く放送車の中へ招き入れた。どこの放送局も相変わらず番組の視聴率狙いのようだ。


 ジーンはカメラに向かって、直面する惑星の危機を訴えた。初めてのTV出演に緊張気味で、最初は照れながらのつたない説明だったのだが、いつの間にか熱弁に変わっていた。



 ジーンは、この日の街頭運動を終わりにすると、惑星の危機をどう乗り越えたらよいか、恩師であるスティーヴ博士に助言を仰ごうと、電話連絡を試みた。

 だが、博士夫妻は、反重力エンジンの改良テストを兼ねて、宇宙旅行に出かけていて留守だった。


 電話に出たのは留守を任されていたノベリーナ(Noverina Aaron)であった。

 ノベリーナは、ミカリーナの異母姉妹で一歳違いの妹。双子のようにそっくりで、姉にもひけを取らぬ美しさ。実母は元王妃のユーンであった。

 宇宙船の大事故で瀕死ひんしの重傷を負い記憶喪失となり、行方不明になっていた母を、ノベリーナは捜し出した。彼女が備える直感能力は誰よりも早く捜し当てた。母親の介護を理由に、半年前から王宮を離れ母のもとで暮らしていた。そんなノベリーナが事情を話してくれた。


(義父は母と共に新婚旅行に出かけました。どこの宇宙に行ったか、詳しいことは分かりません。発明に協力してくれた母へのお礼だとか。新型エンジンのテストだとか。銀河系の中心をめざすのだと、申しておりました。確かシグナスX1へ行ってみたいとも言ってました。二人は銀河探検旅行をしているのだと思います。)


 博士は密かに、もう一機の反重力宇宙船の製造をサームに依頼していた。姿形や性能までもシルバーファルコム号と瓜二つの新型宇宙船。双子の宇宙ファルコンが誕生していたのである。

 その名も『レッドファルコム号』。


 太陽のプロミネンスの如く、煌々こうこうと輝く船体であるようだが、まだ誰も見たことがない。開発を担当したサームでさえも、完成した最後の姿は知らないという。


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